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2014.12.05  あすなろ86 迷信(過去記事)

2008.12号

先日、実家から両親がウチの嬰児(えいじ=赤ん坊)を見に来たときの話です。

ウチの父親が、「赤ん坊の握力はすごくて、体がぶら下がる」「赤ん坊は泳げる」などと曰(のたま)って帰っていきました。

それを聞いたその場では、「ああ、そういう話もあるねえ」と茶を濁して終わりにしたのですが、残念。それ無理だから。

まず、握力の方からいきましょうか。

出生したばかりの嬰児は、だいたい体重が2~4キロです。軽めに見積もって、体重2キロとしましょう。これを両手でぶら下げるために必要な握力は、片手で1キロということになります。

さて、1キロといえば、およそ牛乳パック1本分です。これをレジ袋にでも入れて、片手でぶら下げることができればOKなのですが......2歳児でも無理かもしれませんね。

本当はこういうときには、新生児の握力が果たしてどのくらいあるものなのか、数値データが欲しいところなのですが、それはちょっと見つかりませんでした。私は科学大好きなのです。それよりそもそも、仮にそれだけの握力があったとしても、腕が「抜ける」ことになるでしょう。関節とその周りの筋肉が未発達ですから、とても無理でしょうね。

それでは、嬰児は泳げるか。

実は私、「嬰児が泳いでいる」という映像を見たことがあります。

水泳の元オリンピック選手に、長崎宏子さんという方がいます。現在は水泳教室(マタニティースイミング・ベビースイミング)を開いていまして、そこで嬰児を「泳がせ」ています。しかし私が見たのは、「水面近くで沈まないように下から体を支えられた赤子が手足を動かしている」様子でした。そして長崎さん曰(いわ)く、「赤ちゃんは泳ぐんですよ」

......ああそうですかすごいですね。これで泳いでいるというのなら、芋虫だって泳ぐわ。

とまあ、この手の話の真相なんて、結局この程度のものなのですよ。

実は私の父親は、かなり本を読む人でして、その知識の量は多分、同世代の人と比べてもかなり多い方なのではないかと思います。そんな父親が、こんな風に迷信じみたことを言い始めると、息子としては少々残念です。いや、そうじゃなくてむしろ、本を読む人だからこそ、変な情報をいっぱい取り入れてしまうのかもしれませんが。

ちなみに、私のカミサンも本読みな人ですので、実家に帰って二人が揃うと、モノ知らずな私は二人の会話についていけないことも度々あります。

でも普通、新生児に接する時間なんてごく限られていますからね。そういう妙な説を聞いても、それが正しいかどうか確認する機会も術(すべ)もない場合がほとんどでしょう。言い換えれば、それだけ嬰児というものは、神秘的な存在なのでしょう。そういうことにしておきますよ。

こういった説は、都市伝説やデマなどいう言葉で片づけてしまってもいいのですが、今回は「迷信」としておきましょう。

迷信といわれて、最初に思い出すのはなんでしょうか。やはり「夜、口笛を吹くと○○がやってくる」の類(たぐい)が一番多いでしょうか。

口笛を吹いてやってくるのは、蛇だったり山犬だったりと色々な話を聞きますが、とにかく良くないもののようです。これは、夜中に口笛は遠くまで聞こえるので、迷惑であるからそれを戒めるため、と聞いていましたが、最近は、「夜の口笛は人買いを呼ぶ合図であったから」という説を多く見かけます。特にネット上で見かけますので、ウィキペディアの記事が主要因でしょう。

この説、誰が言い始めたのかは知りませんが、それを言い始めたら泥棒の合図だって口笛でしょうし、暗殺だって同じです。ここから、もっと穿(うが)った見方をすれば「口笛を吹くと人買いさんや泥棒さん達の商売の邪魔になるからやめましょうね」になってしまいます。何かおかしくないですか?

どうもこの説には、「日本は昔は人買いが跋扈(ばっこ)していた恐ろしい国だったんだよ」というように、国の歴史を貶(おとし)めて教育しようとする、最近流行の例の力があるような気がしてなりません。陰謀説こそ、言い始めるときりがないわけですけどね。

それよりも、江戸時代の長屋がどんな所だったかを考えた方がいいと思います。時代劇で見るかもしれませんが、壁が薄いのはもちろん、入り口の戸は障子一枚でした。その上、一世帯分の広さは、一般的な九尺二間と呼ばれる場合で六畳しかありません。道を挟んだ向かいの家までの距離は、裏通りならば2~3メートルしかありません。

そんな人口密集地で、車がある今よりも遙かに静かな夜、口笛を吹いたらどのくらい遠くまで音が響くか、どのくらいの人数がそれを聞くことになるか、と考えれば、戒めるのは当然でしょう。私は、こちらの説の方が合理的に思えます。

似たような「夜の話」では、「夜に爪を切ると親の死に目に会えない」というものがあります。これも「音が響くから」とする説があるようですが、無理がある気がします。それよりも、切った爪が飛んでいったときに、夜だと行方がわからなくなって危ない、という方が正しいように思えます。

ただ、夜の爪切りに限っては、夜の爪=「世詰め」=短命につながるという説もあります。昔から語呂合わせと験(げん)担ぎの好きな日本人のこと性格を考えると、この説には説得力があります。もしかしたら、本当にたったこれだけの理由なのかもしれませんね。

そういえば、日本語には験担ぎという言葉がありますが、英語には同じような言葉が無くて、代わりにあるのはジンクスjinxです。

ジンクスとは、どちらかといえば悪いものを避けようとするための考え方です。日本の験担ぎは、良いものを引き寄せようとする考えです。このあたりにも、楽天的な世界観を持つ日本人の性格が現れていて、大変面白いと思います。

迷信に限りなく近いものとしては、家相というものもあります。最近は怪しげなドクター某という人が登場して「風水」などと曰っておりますが、本来の風水はあんな小手先的なものではなく、もっと広域的に考えるものです。私に言わせると、あの人の言っていることは風水ではなくて家相です。

さてその家相も、本当に単なる験担ぎから、ちゃんとした科学的根拠があるものまで様々です。また、現在の住宅状況では無視していいものもありますから、何を信じるかは気持ちの問題、と思ってもいいでしょう。

と言いながら、クルマに馬蹄をつけている私です。気持ちの問題だからいいのです。

学塾ヴィッセンブルク 朝倉  



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