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2015.08.07  あすなろ49 徴兵制(過去記事)

2005.11号

基本的に時事ネタは避けているのですが、今回は、昨今の政治的話題に、ちょっとだけ関係のある内容です。

最近、「憲法第九条を改正すると、徴兵制が復活して、侵略戦争ができるようになる」といったような主張を、特に共産党関係の方々から、頻繁に聞くようになってきました。今回は、この手に対する反論を、一人の軍事オタクとして展開してみようと思います。

政治的な主張というものは、えてして複雑な側面を持っているものであり、何を言い出しても、必ず何らかの反論があります。しかし、その反論の根拠が一般人にわかりにくいものだと、国民の同意を得ることができません。国民の同意を得られなければ、次回の選挙で当選はかないません。

そこで、政治家(及び、とりまきの市民運動家)達は、持論を一般人の身近なものに結びつけたいがために、時に無理な理屈を持ち出してきます。今回持ち出した「九条改正によって云々」説も、軍事オタクから見れば、この手の「風が吹いたら桶屋が儲かる」的な発想に思えてしかたがないので、俎上に上げてみた次第です。

その前に、憲法九条の改正は必要か否かという問題ですが、これに関しては結論を出さないでおくこととします。

とりあえず云えるのは、現状の憲法を遵奉するならば、現実的な国防は不可能だということです。先制攻撃が認められていないので、敵が目の前にいても、撃たれるまで撃ち返すことはできません。また、敵国内から発射されるミサイルに対して、それを撃ち落とすことはできても、発射基地の破壊ができません。さらに、敵が一時撤退する際に、再攻撃を防ぐための追撃ができません。

ただ、これまでの六十年間、日本に軍事的な侵攻をしてきた敵国はいませんでした。また、イラクやクエートと違い、日本を占領しても、天然資源を確保できるわけではありませんので、日本に攻め込むメリットは少ないはずです。従って、今後も日本が攻撃を受ける可能性は低いとも云えます。こういう解釈でなら、わざわざ九条の改正をする必要などは無いと考えられます。

では本題です。九条を改正すると、侵略戦争ができるようになるのか。

結論をいうと、できるようになります。が、できるということと、実際にするかどうかということは、全く別問題です。

戦争とは、政治的な解決手段の一つであり、いうなれば外交戦略の一つです。外交とは、全てが国益のためになされます。国益があると判断されれば戦争が起こるかもしれない、としかいいようがありません。

しかし、実際はどうでしょうか。よく、ベトナムや中東に派兵したアメリカの例を挙げる人がいるのですが、イギリス、フランス、ドイツなどはどうなのでしょうか。憲法で戦争を禁じている国は日本だけ、というのは逆に、日本以外は侵略戦争ができる国家である、とも云えます。なのに、いわゆる先進国で、且つ民主主義国家で、現在でも他国に侵攻している国家というのは、アメリカぐらいでしょう。そう考えると、アメリカが戦争しているのは、先進国では例外的ともいえます。

また、戦争をするには、莫大なコストが必要です。国益という面で見ますと、そのコストを上回る利益が得られないなら、戦争なんて、やるだけ損です。

現在、日本を取り巻く世界情勢からしても、いわゆる戦前のような、あからさまな経済封鎖が起こりえるとは思えません。日本が大東亜戦争を起こすことになったのは、戦争か国家滅亡かの二者択一を迫られたからです。これは、ドイツも同様です。当時と同じような状況ならともかく、今は戦争を起こす意味がありません。

従って、憲法九条をどう改正しても、今後、日本が侵略戦争をする可能性は、極めて低いと考えております。

では、徴兵制に関してはどうでしょう。

結論を申しますと、これに関しても「可能性はもちろんあるが、現実的にはほぼありえない」と云えます。

実際、アメリカ、イギリス、フランス、スペイン、オランダなど、先進国のほとんどが志願制です。イタリアも、今年から志願制に変わりました。ドイツは徴兵制ですが、ソ連が崩壊してからここ何年か、継続的に軍縮中です。ここも近い将来、志願制に変わることでしょう。あのロシアでさえ、志願制に切り替えようという話を進めているところです。

では、なぜ世界は、志願制に移行するのか。

近代戦は、近代兵器によって行われます。そして、近代兵器は、ハイテクの塊です。もちろん、それによって命中精度が上がるという利点はありますが、同時に調整や整備が困難になるという欠点もあります。

戦場では、何が起こるかわかりません。武器が壊れたら、それを直すことができなければ、生き残ることはできません。しかし、最近の兵器はハイテク化が進んでいるため、その整備・調整の方法をマスターするまでに、時間がかかります。それは同時に、教育に金がかかるということになります。

徴兵は、いずれ退役します。そんな相手に大金をつぎ込んで教育し、数年でハイサヨナラでは割に合いません。国益的にも、勤労能力に優れた時期の若者を、そういう「非効率な時間」に取られてしまうことは、国の発展のためになりません。よって、志願兵の方が、予算的にも効率がいいのです。

また、近代戦は、ハイスピード戦です。実際、イラク戦争は、始まってから首都のバグダッドが陥落するまで、たった三週間でした。大量破壊兵器とハイテク装備が、このスピード戦争を可能にしました。核兵器を使わなくてもこれです。核を使ったら、さらに戦時期間は縮まるでしょう。

短期間で決着がついてしまうということは、兵力が不足しても、補充するまもなく終わってしまうということです。つまり、先の大戦末期のような学徒動員は、起こりえないということになります。これも、徴兵制が非現実的であるという根拠の一つです。

もちろん、アフリカ諸国同士のように、近代兵器の無い戦争では、何年もだらだらと続くおそれは十分にあります。しかし、世界に誇る精鋭兵器を持つ日本が、そこまで退化することを考えるのには無理があります。

もう一つ。

基本的に、陸戦の場合は、兵士の質より頭数が重要となります。逆に、空海においては、量より質が大切となります。使用する兵器の性質から、必然的にそうなります。となると、現代日本に於ける徴兵制は、やはりメリットよりデメリットが多くなるのです。

学塾ヴィッセンブルク 朝倉  



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