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2015.09.23  あすなろ167 「鳴く虫」各種

2015.09号

前回に引き続き、虫の声に関するお話です。

秋の虫の季節がボチボチやってきました。塾の裏からはツヅレサセコオロギやミツカドコオロギなどに混ざって、スズムシの声も聞こえます。しかし、野生のスズムシなんていう、最近は減ってきたようなものに住み着かれてしまった日には、つまり裏に山盛りに繁茂した草を刈れなくなってしまうわけで、わたしゃどうすりゃいいんでしょうね。

さて、小学校では「コオロギが鳴くのはオスがメスを呼ぶため」なんて習ったと思います。それは正しいのですがそれでは、果たしてコオロギが鳴けるようになったのは、オスがメスを呼びたかったからなのでしょうか。

日本の進化学の世界では、「進化には意思があって、一定の方向に皆が向かうのだ」なんて考える勢力があって、その方々ならばきっと「オスがメスを呼ぶために鳴けるようになったのだ」などと言うでしょうが、まあ本当はそんなんじゃないでしょうね。たまたま出た音を求愛に利用しただけで、それがたまたま翅が擦れた時の音だった、といったあたりが真相でしょう。

そんなわけですから、別の方法で音が出た虫は、それを「鳴き声」として使ってもいいというわけです。そんな虫たちのお話です。

普通、「鳴く虫」といえば、セミとバッタやコオロギ類のことですが、音を出せる昆虫ならば他にもいます。例えば、カミキリムシなんてそうですよね。捕まえると首を動かしてキイキイと発音します。他には、スズメバチが大アゴをカチカチと打ち鳴らして警戒音を出すこともあります。

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カミキリムシやスズメバチは、体の一部を鳴らすことで音を発生しているのですが、音を鳴らす方法としてもっと単純なのは、自分の周り、特に床面を叩くことでしょう。これをドラミングといいます。これならば、特別に発音器は必要ありません。

叩く道具は、脚、腹、頭、アゴなど様々です。昆虫の体は体の外側が堅い物質で覆われていますので、どこで叩いてもいいのです。

例えば、カワゲラという昆虫は、腹で床面(主に植物体)を叩いて音を出します。

成熟したオスは、床面を連打してメスを呼びます。この叩くテンポや回数は、種類によって違います。それに対してメスは、やはり短いドラミングで答えます。種類によっては腹の下側に硬化した「ハンマー」がついていて、叩くために進化したことがうかがえます。

カブトムシもそんなことをします。サナギが周囲の壁を叩いて音を出すのです。

カブトムシは土の中で蛹化しますので、サナギから脱皮する際には、充分に翅を伸ばす空間が必要が必要となるため、蛹室と呼ばれる部屋を作ります。しかし、別の幼虫が土を掘り進んだ勢いで蛹室を壊してしまっても、サナギになった後ではもう作り直せません。そこでサナギは、他の幼虫が自分の蛹室に近づく音が聞こえてきたら、体を動かして蛹室の壁で音を出します。音を聞いた幼虫はビビってその場から離れていくので、サナギの平穏は無事に保たれるわけです。

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キリギリス類の場合、後肢を使って床面を叩く行動はタッピングと言われています。

キリギリスの仲間といっても、全ての種類が翅で達者に鳴くとは限りません。翅では全く鳴かないか、鳴いても小さな音しか出さないような種類は、タッピングを駆使して相手とのコミュニケーションを取っています。キリギリス類のタッピングは、鳴かない種類ではごく普通に見られます。

そんなグループの一つであるコロギスという仲間には、タッピングの代わりに、体を上下させることでどこからかギコギコ音を出すものもいます。オスはこの音でメスを呼んで、メスはそれにタッピングで答えます。

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ハエやカのような飛ぶのが得意な昆虫ならば、叩くより羽音を出す方が簡単です。

ユスリカという「刺さない蚊」がいます。よく蚊柱を作るアレです。ユスリカの羽音はオスとメスでは周波数が違うので、あの蚊柱の中では羽音で雌雄を認識しています。また、その羽音を聞いて他のユスリカが寄って来ることで、さらに蚊柱は大きくなって、交尾の機会を増やすことができています。

ハエも羽音で交信するものがあります。例えばショウジョウバエは、オスがメスがいる側の片側の翅だけを一定の間隔で震動させて誘います。この震動間隔は種によって違いまして、例えば、キイロショウジョウバエの場合は、その間隔は34ミリ秒と決まっています。人間が聞き分けるにはムリですね。その前にそもそも、ショウジョウバエなんてのは2mmくらいしかない小さい虫ですので、羽音なんて最初からほぼ聞こえません。

人間に関知できないものでいうなら、コナジラミという1mm程度の昆虫も発音します。しかもこっちは、ちゃんと発音器を持っていて鳴きます。もちろん普通は人間には聞こえないレベルの「内緒話」です。

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コウモリの声が聞こえると、飛び方を変えて逃げるガの話はご存じでしょうか。ここからさらに、コウモリに向かって音を返すことで、食べられることを避けているガもいます。

ヒトリガなどの仲間には、コウモリにとって有毒=不快な味のものがいます。この味と、このガの発する音の組み合わせを覚えたコウモリは、次からは捕食を避けるようになるわけです。また、無毒のガでも、この音を真似て発するものもいます。別のガでは、コウモリに食われる寸前に、コウモリを撹乱させる音を出して逃げるものまでいます。

まだ他にもあるのですが、今回はここまでにします。虫の話はキリが無いので。

学塾ヴィッセンブルク 朝倉  




おまけ追記
人間には聞こえないような虫の「声」は、音響機器を使って解析するらしいです。
バットディテクターという装置を使えば、コウモリの声のような高音も聞こえるということで、
あちこちの「聞こえない音」を聞いて回るのも楽しいみたいですね。
バットディテクターは、その気になれば自作可能だそうです。

今回の内容の主な参考文献は、北隆館「昆虫の発音によるコミュニケーション」です。
編者はセミのぬけがら検索表で有名な宮武頼夫先生。その他その手の有名人が寄稿しています。
ただ、難しい。眺めているだけでよく眠れる不思議な本です。大筋は面白いんですけどね。


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