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あすなろ196 カタツムリの左右

2018年3月6日投稿

 

 

 

2018.02号

 

前回の記事で、カタツムリのお話の最後に「まだ他にネタはあるんだけど」なんて書きましたところ、これを読んだ高校生に「続きを書け」と言われましたので、書きます。

 

今回は、カタツムリの左右のお話です。

 

カタツムリは巻き貝ですが、この巻き貝という生物は、動物としては珍しいことに左右非対称の外見を持ちます。

 

それに対して、アンモナイトやオウムガイも、巻いた殻を持っていますが、こちらは左右対称です。

正面から見た時に、殻の先端が横に張り出してなくて、中心に収まっています。

つまり、殻を裏から見ても表から見ても同じ形です。

知ってました?

 

アンモナイトはともかく。

 

巻き貝は、ほとんどの種類で、殻の巻く向きが「右巻き」です。

左巻きの殻を持つ種類は、巻き貝のうちの1割未満なのだそうです。
 



「右巻き」の巻き貝たち


 

しかしこれがカタツムリ(有肺類)に限ると、手許の図鑑(※)で数えた限りでは、131種類(ナメクジを除く)のうちの32種類が左巻きでした。

ここから推定する限りでは、カタツムリについてはおよそ4分の1の種類が左巻きということになります。

 

※ 日本のカタツムリは約800種です

 

ところで、カタツムリは雌雄同体と言って、オスとメスの両方を兼ねた体を持っています。

そのため交尾の際には、二匹が向き合って同時に交尾しあいます。

そしてその生殖孔が体の側面についているために、殻の巻く向きが逆だと、交尾が成り立ちません。

 



b(左図) カタツムリの交尾の様子
c(右図) 逆巻きの変異個体とは交尾できない(矢印が生殖孔の位置)


 

画像の注釈に「変異個体」と書きましたが、いわゆる突然変異と考えて構いません。

 

巻き貝の左右は、実はたった一つの遺伝子によって支配されています。

そこに変異が起こると、体中の構造が全て左右逆になってしまいます。

ですから、他の生物に比べると、比較的「簡単」に左右が入れ替わります。

 

しかし、そういう変異個体は、生殖孔も逆についてしまうので、図のように交尾ができなくなります。

つまり、子孫は残せません。

ので、通常はそこで途絶えます。

 

ところがもし、偶然にも同じ逆巻きの個体同士が出会ったら、そこからは「新種」ができるわけです。

元の巻き型とは交尾ができないわけですから、それはもう別の種類です。

 

そして実際、そういうカタツムリもいます。

 

東北地方に棲むアオモリマイマイは、ヒダリマキマイマイの左右が反転してできた種類だということが、遺伝子の解析から判明しています。

遺伝子解析をすると、前述の左右を支配する遺伝子以外は、全く同じだったのです。

 

しかも、ヒダリマキからアオモリへの変異は、並行的に少なくとも3回は起こったことがわかりました。

 



赤がヒダリマキ
青がアオモリ


 

これはつまり、「一種類の生物は、全てがある1個体の子孫である」という、現在の進化学の主幹的な考えである単系統主義が、厳密には当てはまらない例が見つかってしまった、ということなのです。

 

……ってな感じで、この話は進化屋さんや系統分類屋さんにとっては、かなり衝撃的な内容なんですけど、普通の人にとってはどうでもいいですよねー。

すみませんホント。

 

もう一つ、別のお話です。

 

セダカヘビという、カタツムリを食べるヘビの仲間がいます。

日本には、石垣島と西表島に、イワサキセダカヘビという種類が生息しています。

 

このヘビは、カタツムリに後ろから噛みついた後、中身を引きずり出して食べます。

その際、右巻きのカタツムリが食べやすいように、右側の歯の数の方が多くなっています。

つまり、右巻きのカタツムリが食べやすいように、アゴの形が進化したヘビなのです。

 



セダカヘビの下顎。
左右で、歯の数と骨の形が異なる。



イワサキセダカヘビの捕食の様子。
右の歯が殻の奥側。


 

このような進化をすると、右巻きカタツムリの捕食が上達する一方で、左巻きの食べ方が下手になります。

その結果、国内のこのヘビの生息域では、左巻きのカタツムリの方が生き残りやすくなって、左巻きの種類が増えることになりました。

国外でも、セダカヘビの棲む東南アジアは、他の地域に比べて左巻きのカタツムリが多く生息しています。

 

なお、セダカヘビの中で一種類だけ、左右対称の下顎を持つものがいます。

実はこの種類はナメクジだけを食べるので、左右非対称になる必要がなかったのです。

 

ところで、「三すくみ(さんすくみ)」という言葉はご存じでしょうか。

ジャンケンのように、三つのものがあるとき、他の二つに対して強い・弱いの関係を持つ状態です。

 

三すくみといえば、普通はジャンケンではなくて蛙・蛇・蛞蝓(なめくじ)のことを言います。

曰く、蛙は蛇に弱く、蛇は蛞蝓に弱く、蛞蝓は蛙に弱い。

そこで、この三者が出会ったら、互いに動けなくなってしまう、と。

 

蛇が蛞蝓に弱い理由はわかりません。

昔からそう伝わっている、としか言えません。

 

セダカヘビがナメクジを食べると聞いて、最初に思い出したのが三すくみでした。

 

全然関係ないだろっていう。

ねえ。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義