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あすなろ141 ウイルスは生物か(過去記事)

2018年3月17日投稿

 

 

 

2013.07号

 

生物を学びたくて大学へ行った者です。

 

私に限らないと思うのですが、自分の得意分野に関して、世間様で聞く内容につっこみを入れたくなることがあります。

先日もNHKのラジオで「ウイルス菌が云々」と言っているのを聞いて、「ウイルスは菌じゃねえよ」と一人でつぶやきながら運転する私なのですが、同じようなことってありますよね?

 

菌といえば、20年近く前、当時流行した二十四時間風呂のセールスマンが、「バクテリアという菌が~」という説明を始めたときのことも忘れられません。

菌を英語で言うとバクテリアだよ……と言いかけてやめたあの頃は、何にでも悪態をつく今よりも若かったんだなあ、と感じています。

 

とは書きましたが、普通の人にとっては、菌=バクテリアとウイルスの違いなんて、はっきりいってどうでもいいことだと思います。

カットソーやチュニックの定義なんて知らなくても、買って着ることに対して何も困らないのと同じでしょう。

 

ですが敢えて言います。バクテリアとウイルスは、色々なものが根本的に違います。

なんせ、ウイルスはそもそも、生物とは認められていないのです。

 

ではウイルスは、生きていないのかというと、生きていると言っていいのかどうかが、少し微妙な存在なのです。

ある意味、生きていると考えることもできますので、「生き物」と呼んでも差し支えないのかもしれません。

しかし、生物学的な分類では、「生物とは言えない」ということになっています。

 

生きていても生物とは言えない例は、ほかにもあります。

例えば、人間の細胞。

一つ一つは、確かに生きています。

皮膚を切り落として放置しても、しばらくは個々の細胞が生きていますし、そのうちに死にます。

しかし生きているとはいえ、切り落とした皮膚の一部を一つの「生物」とは呼べません。

生き物イコール生物、というわけではないのです。

 

これは、「虫」と「昆虫」の違いのようなものだと考えてください。

この二つの言葉は、普段は同じような意味で使っていますが、厳密には違います。

 

虫という言葉には、特に定義はありません。

「小さい動物」というくらいのものです。

しかし、昆虫には「節足動物門昆虫綱に分類される生物」という定義があります。

 

これと同様に、生き物という言葉には特に定義がありません。

しかし、生物という言葉に対しては、定義を設けようとする人たちもいます。

 

生物の定義にはまだ諸説あるのですが、地球上の生物に限っては、

1. 自己増殖する
2. 代謝する
3. 恒常性の維持
4. 細胞から構成される
あたりを挙げるのが一般的なようです。

 

各項目について説明します。

 

1. の自己増殖とは、

「自己の体を分離させることで自己と同じ姿の生物を作り出す」

というような定義となっています。

 

2. の代謝とは、

「エネルギー源を内部に取り入れて、それを分解することでエネルギーを作り出すこと=異化」

「エネルギーを使って有機物を作り出すこと=同化」

の総称です。

簡単に言うと、「食べること」と「育つこと」ができるか、ということです。

 

3. の恒常性とは、

「変化に対して内部を保とうとすること」

です。

人間ならば、血圧や体温の調整、病原菌の排除などです。

 

4. の細胞には、

「リン脂質による二重膜に包まれている」

「細胞質で満たされている」

などの決まった特徴があります。

この特徴は、地球上の全ての生物に共通となっています。

 

さて、先に挙げたバクテリアは、この四つの条件を全て満たしますので、余裕で生物と言えます。

しかしウイルスは、知る限りこの4つの条件を満たしてはません。

 

まず 4. から。

ウイルスはDNAなどの遺伝子と、それを覆っている蛋白質のカラしかありませんので、細胞とは言えません。

 

また、ウイルスにはエネルギーを作り出す能力がないので、 2. と 3. が無理なはずです。

が、もしかしたら私の勉強不足だったり、科学的に未解明だったりするかもしれませんので、この2つは保留とさせてください。

 

最後に、 1. に関して。

ウイルスは増えますが、増え方が生物の常識から外れています。

 

ウイルスの増殖法

 

上の図は「ヒトに寄生するウイルス」ですので、それに合わせて説明します。

 

ウイルスは、ヒトの細胞内部に侵入するとまず、自分のカラを開くなどして、中の遺伝子をヒトの細胞内に放出します。

すると、その遺伝子を読み取ったヒトの細胞は、その情報を「上からの指令」と勘違いして、ウイルスのカラと遺伝子を作る作業を始めてしまいます。

そうやって量産されたウイルスが細胞の外に放出されることで増殖するのです。

 

つまり、ウイルスはウソ情報を流しているだけで、量産作業しているのはヒト細胞ですし、ウイルスの材料もヒト細胞のものです。

 

しかも、最初に着ていたカラはさっさと捨てちゃっていますので、侵入してから第1号が完成するまでの間、ウイルスは一時的に細胞内から消滅しているように見えます。

 

こんなのはやっぱり、生物とは言えないと思います。

私からすれば、ウイルスの増殖は生命活動ではなくて、単なる化学変化です。

 

しかし、ウイルスを破壊、もしくは無効化することを「殺す」と表現することもあります。

「ウイルスを滅菌・殺菌」というような言葉は、実際に薬とか医療関係では使われているみたいですので。

殺すことができるなら、やっぱりウイルスも「生き物」ということになってしまいます。

 

え?「殺菌」ですって?

ああ……

また菌という言葉が出てきてしまいました……

 

最初に書いたとおり、生物学的には、ウイルスは菌でないのです。

しかし……

こうなったら、広義の「菌」にはウイルスも含まれる、と解釈することにします。

前言撤回ですわ。

 

だってそうしないと、いくら殺「菌」しても、ウイルスには全く関係ないことになってしまいます。

ぼくの所だけウイルスが「死」んでない、というのは嫌ですからね。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義