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あすなろ66 除菌・抗菌(過去記事)

2018年3月17日投稿

 

 

 

2007.04号

 

さて。今回は久しぶりに、アヤシイ言葉の検証をしてみようと思います。

 

最近、「除菌」という言葉をよく聞きます。

なんでもかんでも除菌です。

つい先日も、幼稚園のお母ちゃん友達と話をしていて、何かの話をしているときに

「○○って除菌もできるそうだし」

という話が出ました。

 

でもそれを聞いたとき、あれっ?と思ったのです。

 

そういえば、少し前まで流行っていたのは「抗菌」だったはずだよなあ。

 

そもそも、殺菌という言葉があります。

注射をうつ前に、アルコールの脱脂綿で拭くのは、確か消毒と呼んだはずです。

なんで殺菌とか消毒とかいう言葉を使わずに、わざわざ「除菌」なのでしょうか。

 

大抵こういう時には、ウラがあります。

そう思って調べてみたら、すぐに出ました。

 

おほほほほ。

予想通りでしたよ。

 

ま、とりあえず、一通り解説していきたいと思います。

 

最初に、一番よく使う言葉「消毒」です。

関連が深い「殺菌」と「滅菌」も一緒に説明します。

 

殺菌は、言葉通り菌を殺すことです。

ただし、どのくらいのレベルまで殺せば殺菌というか、という定義はありません。

 

しかし、滅菌は違います。

ここには、厳密なレベルの定義があります。

 

もとの意味としては、

「対象物に存在するすべての微生物を、有害無害を問わず除去すること」

ということらしいのですが、完全なる除去というのは非常に困難なので、国際的に「生存確率が百万分の一」と定められているようです。

要するに、ほぼ無菌といえる状態のことでしょう。

ですから、滅菌という言葉が使われるのは、ほとんど医学的な場面に限られてきます。

滅菌ガーゼとかね。

 

で、消毒という言葉なんですが、これは殺菌と滅菌の中間みたいな言葉です。

 

一応定義とされているのは、

「有害な微生物を、害のない数まで減らすこと」

となっています。

この場合、無害な微生物はいてもかまわないようです。

言葉どおりですね。

ですから、「殺菌消毒」といえば消毒を目的とした殺菌でしょうし、「滅菌消毒」ならば、消毒目的の滅菌となります。

 

この辺りまでは、だいたい言葉どおりの定義です。

ただし、以上のうちの「殺菌」に関しては、極端な話ちょっとでも菌を殺すことができれば、もう立派な殺菌作用があると言っても、間違いとは言えません。

 

ということを踏まえると、この先はアヤシイ世界となってくるわけですねえ。

 

まずは、「抗菌」。

 

この言葉は、私は以前から定義を知っていました。

この「抗」という字は、何に抗している意味なのかというと、「細菌の繁殖に対して」というのが正解です。

一応ね。

 

抗菌には、主に銀が用いられます。

銀を表面につけておくことにより、細菌の繁殖を抑えられる、という仕組みのようです。

ただし、その具体的なシステムに関しては、まだ諸説があるようです。

主に二つの説があるのですが、その内容は割愛します。

というのも、書き始めると長くなる上、生物学的な基礎知識が必要な話になるからです。

 

でも結局は、菌に働きかけて殺す、というシステムであり、繁殖を阻害するという仕組みではないようです。

ですから、なぜこの場合に限っては殺菌と言わずに抗菌と言うのか、というのが今ひとつわからないところです。

アヤシイですねえ。

怪しいんですよ。

もしかしたら、「殺菌」ほどは即効性がないから、なのかもしれません。

 

実は、銅や金にも同様の効果があります。

 

しかし、金と銀はほぼ完全に無害であるのに対して、銅は化合物によっては全くの無害とは言えない場合があります。

また、金は溶けにくい物質なので、工業製品として加工しにくいという欠点があります。

金に限っては、銀よりも高価ですしね。

 

というような理由から、抗菌には銀が使われています。

実は古くから、銀食器に水や食べ物を入れると、腐りにくい効果があることは知られていたようです。

 

また、排水口や三角コーナーのような、口に入ることがないような場所に限ってなら、「抗菌」として銅が使われることもあります。

ただしここでもまた、言葉のカラクリがあったりするんですねえ。

 

売り文句としては

「ぬめりの原因となる雑菌の繁殖を抑える」

というのが一般的です。

そして銅は雑菌の繁殖を抑えますし、ぬめりの原因は雑菌の繁殖です。

ここまでは確かです。

しかし、JISの規格によれば、工業製品の「抗菌」の対象には、ぬめり自体は入っていないんだそうです。

つまり、ぬめりがつかないわけではない、という変なことに。

 

抗菌の話は、もうそのあたりでいいでしょう。

次はいよいよ「除菌」です。

 

文字通りにとれば、本来の言葉の意味は、「菌を除く」です。

そして実際に、現時点では各メーカーそれぞれの基準にしたがって、自由に「除菌」を名乗っています。

当然、殺菌効果は必要ありません。

 

フフン。

やっぱりね。

 

要するに、普通の石鹸でも除菌はできるということです。

もっというと、単なる水洗いでも「除菌」で間違っていません。

除菌という言葉に惑わされた方、ざ~んねんでした。

 

ただ一応、前述したとおり「各メーカーによる基準」というものはあるようですから、「当社比」までは信じてもいいでしょう。

 

さて、これではあまりにもアレだということになって、業界では除菌の定義を定めようという方向に向かっています。

この辺りは、さすが日本の企業です。

 

「洗剤・石けん公正取引協議会」において、

「台所用洗剤と住宅用洗剤の除菌表示に関する公正競争規約の追加・改訂案が正式に承認され、

公正取引委員会に申請、同委員会から承認決定されました」

となっています。

 

しかし、これが決定したのが昨年(2006年)の9月のことで、しかも2年の猶予期間が設けられています。

というわけですから、あと2年ほど経つまでは、「除菌」の効果はプラシーボ程度と思ってしまってもいいでしょう。

 

ちなみに、先に挙げた「抗菌」も、同じような経過をたどっています。

すなわち、乱発したあとに統一基準ができ、今では業界内における定義が定まっています。

最近はすっかり抗菌グッズを見なくなりましたが、おそらくこの基準を越えられないものばかりだったのでしょうね。

 

つまりはそういうことです。

 

さ、2年後が楽しみです。

どれだけの物が消滅するでしょう。

またその頃には、どんな新語がひねり出されていることでしょうか。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義