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HOME雑記帳(あすなろ)あすなろ165 自転車が倒れない理由(過去記事)
2015.07号
私の数学の授業は、公式の理屈は原則として「説明抜き」で、結論だけを教えています。
もちろん教科書には理屈が書いてありますし、本当は理屈を知っていた方がいいということはわかっています。
しかし、実際のテストでは、公式の理屈は得点に繋がりません。
さらに、毎日通って時間をかけられる学校の授業とは違って、私が授業できる時間は週に90分しかないので、割り切っています。
が、たまに、公式の理屈を100%理解できないと先に進めなくなる子(大抵が女子)がいます。
特に、中3の因数分解と、高2の三角関数あたりで来ます。
ただ、それを過ぎて微積とか二次曲線あたりになると、全てを理解するのは余りに時間のムダだ、ということがわかってくるようですが。
ともかくも、そうやって停滞している子には、こんな説明をして、ムリに納得していただいております。
公式は単なる道具。
もちろん道具の理屈を知っていた方が使いこなせるけど、それよりも使い方を覚える方が先。
君は自転車がなぜ倒れないか100%理解できないと、自転車には乗れないのか?
公式も道具もそうですが、ある程度使い込んだ後で理屈を見直してみると、改めてよく理解できるし納得できる、ということがよくあります。
まずは使いましょう。
全てはそこからです。
自転車がなぜ倒れないかという理屈も、乗り始めた頃にはなかった様々な経験を積んでいくと、理解できるようになります。
説明してみましょうか。
自転車が倒れない要素は色々とあるのですが、箇条書きにすると
1. ジャイロ効果
2. キャスター効果とトレール量
3. セルフステア
あたりでしょうね。
強いて挙げれば、
4. キャンバースラスト
も無関係とは言えませんが、今回は割愛します。
順に行きます。
ジャイロ効果というのは、
「物体が高速回転していると、向きが変わりにくくなる」
という現象です。
これ、我々の世代以上のオッサンだと、「地球ゴマと同じ」といえば一発でわかるのですが、もう屋台では見かけませんし、知らないでしょうねえ。
実際に触ってみるとすぐにわかるのですが、ブウンと回っているものは、どういうわけか向きが変わりづらくなるのです。
この効果を利用しているのが人工衛星で、内部のジャイロを高速回転させることで一定の向きを保つことが出来ます。
ところで、地球ゴマは今年の3月で製造中止となったために、現在は価格が高騰中です。
再生産の動きもあるようですので、今は手を出さない方が無難です。
自転車の場合は、車輪の回転によって、車体の姿勢の安定を助けています。
車輪が重いほど車体は安定するでしょうが、あんまり重いと加減速や旋回が困難になるでしょう。
なお、ジャイロ効果はコマが倒れない理由の一つでもあるのですが、傾いたコマが真っ直ぐに戻る理由はまた別です。
次に、キャスターとトレールの話です。
キャスターという言葉は、椅子の脚の先についている車輪で聞いたことがあるかもしれません。
押すと勝手に向きを変えるアレです。
アレ正確には「自在キャスタ」と言うのですが、なぜ勝手に向きを変えるかと言えば、向きを決める回転軸と接地点とのずれがあるからです。
要するに、車輪が引きずられることで向きが変わっているわけです。
棒を引きずって歩くと後ろに行くのと同じです。
そして実は、自転車の前輪にも同じ効果があります。
自転車は、ハンドルが切れる中心軸(ステム軸)の延長上よりも、必ずタイヤの接地面が後ろになるように設計されています。
上図の赤い線がハンドルの回転軸、青い線が「ずれ」(トレール量)です。
これによって、緑の線のような「曲がった棒」を引きずるのと同じ効果が発生して、車体が前進すると、前輪は勝手に直進しようとするのです。
そしてセルフステアとは、車体が右に傾いたら勝手に右にハンドルが切れる力のことです。
これは自転車が、ステム軸の前後では、重量バランスが違うように作ってあることから発生します。
次の図の赤い線(ステム軸)の前後では、明らかに前側の方が重くなるように作られています。
下側の模式図のように、何かに串を一本だけ刺したら、くるっと回って重い方が下に行きますよね。
これと同じことが起こります。
自転車のステム軸は前側が上になるように傾いていて、しかも上(前)が重くなっていますので、車体が傾いてバランスが崩れると、すぐに重い方が下に行こうとします。
これによって、右に傾いた時に右にハンドルが切れるのです。
前かごに重い荷物を載せると、ちょっと傾いただけでハンドルが勝手に切れるようになることはご存じですよね。
これに加えて、ハンドルバーをステム軸よりも前にずらして配置(オフセット)することで、さらに腕の重さも前側にかかるようになっています。
これによって、体が右に傾くだけでも、自然に右にハンドルが切れる効果が得られます。
なお、このオフセットは、体重移動で曲がるスポーツタイプでは大きめに設計されてます。
右に傾いた時に右にハンドルが切れると、自転車は右に曲がります。
その際、瞬間的には重心(人間)を残したまま、自転車だけが右に移動するので、自転車は勝手に直立を取り戻します。
片足立ちで右に傾いた時、とっさに右にケンケンしているようなものです。
……実はインターネットで「自転車が倒れない理由」を検索しても、セルフステアについて触れている記事はほぼ見つかりません。
セルフステアがなぜ起こるかという理屈に至っては、今のところ皆無です。
何故だ。
ともかくも、以上が、自転車が倒れないで走ることができる理由です。
おしまいー。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義
追記:余計な一言
今回の自転車の話は、「自転車が勝手にバランスを取るという話」に徹しています。
しかし本当は、今回の話では無視している要素があります。
それは、ペダルを漕いだときのバランスの話です。
右足を踏み込んだときには、体はどちらにひねっているのか、
またそのとき、体のバランスは、つまり重心はどこにあるのか、
そしてそのとき、車体はどちらに傾いているのか、
そうなるのはハンドルにどういう力をかけているからなのか、
またハンドルはどちらに向かって曲がろうという力がかかっているのか。
考えてみると面白いですよ。
そして、それを逆手にとって、わざと乗りにくく設計した自転車というものも存在します。
パナソニックの「ロデオ」という自転車です。
どういうものなのか、ちょっと画像検索してみてください。
一見折りたたみ自転車のようですが、全く趣旨が違う乗り物です。
よく見ると、ステム軸の角度と、ステム軸からハンドルまでのオフセットが頭狂っています。
私も一台持っていますが、渡されて10分以内でペダルを1回転漕げた人はいません。
正確には、ほとんどの人が5分も練習しないうちに、「ムリ」と言ってあきらめます。
もちろん、私は乗れますよ。
練習しましたから。
これでコンビニまで買い物に行って、片手でコンビニ袋を下げて帰ってこられます。
これに乗ると、漕ぐときにはハンドルにどういう力を入れているのかが確認できるのですが、
残念ながら、もう10年ほど前に廃盤になってしまいました。