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あすなろ92 探査機はやぶさ(過去記事)

2018年4月7日投稿

 

 

 

2009.06号

 

 

「はやぶさ」をご存じでしょうか。

 

2010年の地球帰還に向けて、現在火星と小惑星帯の間を周回中の惑星探査機です。

2005年、小惑星「イトカワ」に接近したときには話題になりましたが、世間的にはそれっきりで、その後のドラマはご存じないかもしれませんね。

 

ここで一枚、ネットで有名な画像をあげておきます。

 

 

何でもかんでも「擬人化」してしまうのは最近のネット人達の悪い癖ですが、とにかくこれがまさに「はやぶさ」の現況です。

 

「はやぶさ」は、2003年五月に打ち上げられました。

ソーラーパネルを広げると翼端で5.7mありますが、本体のサイズは1.5m×1.5m×1.5mしかありません。

これが、火星と木星の間を回る小惑星のサンプルを採取して、再び地球に戻ってくる、という計画です。

当初は2007年に戻ってくる予定でしたが、計画変更により延期中です。

 

これまでにも、火星探査機や木星探査機がNASAなどによって打ち上げられています。

しかし、ミッションは画像データを送るところまでで、本体は回収しないのが普通でした。

戻ってくるためには、単純に倍の燃料を必要とするわけですから、大変なのです。

(さらに付け加えると、日本の宇宙開発関連は、諸外国から見ると気持ち悪いくらいの低予算でやっています。

実はこれが一番すごかったり)

 

これを実現したのは、イオンエンジンの本格実用化でした。

イオンエンジンの実験自体は’60年代からあったのですが、2000年前後から長期運転に耐えられるような仕様へと開発が進んできました。

 

イオンエンジンとは、イオンの持つ電荷を利用して加速するものです。イオン化された推進剤を電界の中に放出すると、イオンの電荷により加速運動を始めます。機体は、このとき各イオンが得た運動量の総和と同じ大きさで逆向きの運動量を得ます。すなわち、イオンの加速の反作用により機体が加速するという原理です。イオン源の反対側にある電極はグリッド状になっていて、ここを通過したイオン流は中和器により電気的に中性となって放出されます。中和器はイオンと等量の電子を放出していて、

 

……いいですよね、もう。

 

要するに、燃料の重さに対する推進力の大きさが、化学エンジン(いわゆる普通のロケットエンジン)よりも高効率(10倍以上)なのです。

ただし、真空中でしか使えません。

 

さて、地球を離れた「はやぶさ」が出発して半年後、太陽に、観測史上最大のフレアが発生します。

これによって強烈な電磁波が吹き荒れたため、早くも「はやぶさ」の太陽電池の一部がぶっこわれます。

が、ミッション遂行に支障はないと判断されました。

 

発射から1年後、地球によるスイングバイ(重力を利用する加速方法)が成功。

ここから地球軌道を離れて、小惑星帯に向かいます。

 

さらに1年2ヶ月後の2005年7月、「イトカワ」を「発見」して、軌道計算を改めて開始します。

8月、姿勢制御のために3つあるリアクションホイールの1つが故障。

三次元空間では通常、x軸y軸z軸の3つで位置を決めますが、1つの故障は想定内だったために計画続行。

そして9月、イトカワから20kmの距離に静止(相対速度0.25mm/sec)することに無事成功しました。

日本の機器が他天体に相対停止したのは初めてです。

ここまで2年2ヶ月、20億kmの旅でした。

 

10月、リアクションホイールがもう1つ故障したため、化学エンジンで対処。

4週間後、地球に帰るための燃料を残す方法を見つけ出して計画続行。

 

11月4・9・12日、イトカワ着陸リハーサル。

11月20日、着陸及び離陸成功。

小惑星上では世界初でした。

 

11月26日、再着陸。

サンプル採取用の弾丸発射後離陸。

この2度の着陸により、サンプルが採取された可能性が高いです。

 

離陸時、化学エンジンの燃料漏れ発生。

弁閉鎖によって漏れは止まりますが、姿勢が大きく乱れます。

これによる温度変化の影響によって電気系統のトラブルも発生。

 

12月4日、イオンエンジンの燃料を直接噴出することで姿勢制御成功。

 

12月8日、再度燃料漏れで姿勢制御不能。

 

交信途絶。

 

 

 

 

 

 

 

1月23日、はやぶさからの脆弱な電波を受信。

1月26日から徐々に来るようになってきた返答によると、電源は、一度完全に落ちていたようです。

バッテリも放電しきった状態で、かつバッテリの一部は使用不能。

化学エンジンの燃料は全量喪失。

ただ、イオンエンジン用の燃料は無事でした。

 

その後、この燃料を噴出したりプログラムを書き換えたりして、徐々に姿勢が回復。

同時に交信状態も回復していき、3月6日、実に3ヶ月ぶりに、ようやく正確な位置がわかりました。

この時、イトカワからは12000kmも離れていて、地球からは3億kmの距離でした。

ここからはやぶさは、地球に向けて帰還をようやく開始したのです。

 

その後、イオンエンジンの無事も確認できました。

順調に進めば、来年(2010年)6月に帰ってくるでしょう。

そして地球に向けて、試料の入ったと思われる耐熱カプセルを放出した後、本体は大気圏で燃え尽きる予定です。

 

……6年かけた「はじめてのおつかい」は、これでようやく終了する予定です。

 

さてここで、また新たなミッションが持ち上がりました。

 

今年(2009年)の3月、小惑星が地球をかすめていったことはご存じでしょうか。

国内では、そういった天体の予測システムが無かったため、その構築が急務となっていました。

 

そしてその測定実験の対象として、今後実際に地球を「直撃」するはやぶさが使われることとなりました。

これが本当に、最期のご奉公となります。

 

現在、6月28日(水)まで、日立市の日立シビックセンター天球劇場にて、「全天周映像HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-」を上映中だそうです。

全国どこでも見られるというものではありませんので、茨城県民は大変ラッキーです。

私は見に行きますよ。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義

 

 


追記

見に行きました。

マジで感動しました。

カミサンも眼を赤くしていました。

これだけのために日立まで行った甲斐がありました。