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あすなろ93 オオカミ、コウモリ(過去記事)

2018年4月7日投稿

 

 

 

2009.07号

 

世間的に、ある固定的なイメージを持たれる動物がいます。

例えば、ライオンは百獣の王、ゾウは慈悲深い、キツネはずる賢い、カメはのろま、カラスは腹黒い、等々。

 

このイメージは、幼児向け絵本や児童文学において、登場キャラクターの性格付けをする際に、便利に使われています。

マンガや映画で、悪者は見るからに悪そうな容姿をしているのと同じですね。

怖い「人物」を用意するときに、普通はウサギを使いませんよね。

※ピーターラビットには「こわいわるいうさぎのおはなし」という話もありますけど。

 

さて、日本で「のろまな動物」といえばカメでしょうが、英語圏では普通、カタツムリです。

彼の国において、どうしてカタツムリがその代表を担うようになったのかは知りませんが、日本でカメがのろまだと言われるようになった理由はだいたい想像がつきます。

童話「うさぎとかめ」の影響でしょう。

「うさぎとかめ」の出典は、イソップ童話(もしくはイソップ寓話)です。

 

イソップ童話が作られたのは紀元前6世紀と言われていますが、日本に初めて伝わったのは、1593年のことでした。

その後、江戸時代に黄表紙(軽い娯楽本)などで『伊曾保物語』として何度も出版されていますので、「兎と亀」や「鼠の相談」のように、ほとんど日本の昔話のようになってしまった話もあります。

 

さて、そのような話が伝わったために、それまでに無かった悪いイメージがすっかり定着してしまった動物達がいます。

その代表格はオオカミでしょう。

 

最近、絵本「あらしのよるに」等で少々復権の兆しがありますが、基本的にオオカミは「悪者」のイメージです。

ですが、日本では古来より、オオカミに悪いイメージはありませんでした。

というよりもむしろ、神聖な動物だったようです。

 

日本では仏教の伝来以後、野生の獣を捕って食べることは(基本的には)ありませんでした。

従って鹿や兎などは、農作物を荒らすだけの、単なる困った存在でした。

 

そうなると、それを「駆除」してくれるオオカミなどの肉食獣は、田畑を守る「神獣」と見ることができるわけです。

このあたりは、各地で犬神として祀られていたり、オオカミを狛犬としている神社もあったりするところからもわかります。

また、オオカミの語源は「大神」だと言われています。

 

そもそも、日本のオオカミは中型の日本犬程度の大きさで、童話「赤ずきん」のように、人間を食べちゃうような動物ではありませんでした。

むしろ、山道では、周囲にオオカミがうろついている時の方が、イノシシよけになって安全だったのです。

 

 

ですが、牧畜を盛んにおこなっていた西洋人にとっては違いました。

オオカミというのは、大切な家畜を襲う害獣の典型だったからです。

そういえば、キツネも悪者にされることが多いですが、オオカミと同様の理由でしょうね。

家畜の敵は悪者なのでしょう。

 

ともあれ日本でも、江戸時代以降は、悪者のイメージが定着してしまったのでしょう。

いつの間にか日本のオオカミは、害獣として駆除の対象となってしまったようです。

 

さらに明治以降は、西洋犬とともに持ち込まれた伝染病が、オオカミの間に流行したことも追い打ちをかけたようです。

明治38年捕獲の記録を最後に、ニホンオオカミは絶滅してしまいました。

 

これもアメリカのリョコウバトと同じで、絶滅するとは当時全く考えられていませんでしたので、残っている写真などの資料はごくわずかです。

現存する剥製は世界に4体のみです。

 

また、北海道から樺太方面には、別種エゾオオカミが棲息していました。

こちらもやはり、アイヌからは神として扱われていました。

しかし明治以降、入植者によってエサのエゾジカが乱獲されたため、食糧不足となって牛馬を襲うようになります。

そこで、招聘されて牧畜の指導にあたっていた西洋人によって徹底的に駆除され、ニホンオオカミとほぼ時を同じくして絶滅しました。

 

さて、オオカミと同様に、西洋文化によってマイナスイメージへと逆転してしまった例として、コウモリがあります。

 

コウモリは漢字で『蝙蝠』と書きます。

古来より漢語では、この音が「偏福=福が偏って来る」に通じるということで、縁起のいい動物とされ、調度品などに描かれてきました。

この捉え方は周辺諸国にも伝わったため、東洋ではコウモリに悪いイメージはありませんでした。

日本でも、コウモリの糞が良質の肥料として利用されていたり、かわほり、蚊食鳥(かくいどり)と呼ばれて夏の季語だったり、いろいろと親しまれていたようです。

 

 

しかし、イソップ童話の「卑怯なコウモリ」が伝わったことにより、コウモリはどっちつかずの動物というイメージがつき、さらにヴァンパイヤの映画により、今では完全に忌避対象にまでなってしまっています。

 

特に、ヴァンパイヤのイメージが強烈なのですが、血液を食糧とする種類は、全世界でコウモリ約980種のうち、わずか3種類だけです。

しかもこの3種は、全て中南米に棲息していますので、西洋人にその存在が知れたのは、少なくとも、ピサロやコルテスによる中南米侵略があった16世紀以降でしょう。

 

しかも、コウモリとヴァンパイア伝説を組み合わせた「吸血鬼ドラキュラ」は、20世紀になってからの作品です。

コウモリ=吸血鬼というイメージが、いかに最近のものかがよくわかります。

 

しかし、WEBで「コウモリ」と検索すると、「コウモリ駆除なら……」の広告がわんさと出てきます。

都会にも棲息するアブラコウモリは虫食性で、カやガなどを食べます。

一晩で、500匹のカに相当する虫を食べるそうです。

コウモリが全くいなくなってしまったら、どれだけカが増えることになるのか、わかっているのでしょうか。

 

日本に棲息する哺乳類約100種のうち、コウモリは35種で、最大のグループです。

しかし、その多くは絶滅危惧種に指定されています。

わけもわからず、むやみに嫌うことは避けたいものですね。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義