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あすなろ193 ゲノム解析と分類学(過去記事)

2018年4月11日投稿

 

 

 

2017.11号

 

生物の分類のお話です。

 

中学校の理科の教科書を見ると、植物の分類では最初がコケ、次にシダ、と分かれていきます。

そして裸子植物、被子植物と続いて、次の分類が単子葉類と双子葉類、さらに離弁花と合弁花という順になっているはずです。

 

一方、動物の方は、無脊椎動物と脊椎動物、その先は魚類、両棲類、爬虫類、鳥類、哺乳類と分かれているはずです。

 

で、そのうち、動物の方はまだいいんです。

両棲類を両生類と書いたり爬虫類をハチュウ類と書いたり哺乳類をホニュウ類と書いたり昆虫をコンチュウと書いたりしている点は大変不満なのですが、まあ良しとします。

 

哺乳類をホニュウ類と書かせるんなら、鳥類はチョウ類で魚類はギョ類だろうが。

そう書いてみろよコラ。

なんてことを強く強くとっても強く思うのですが、まあ良しとします。

 

ちなみに、チョウと言えば分類屋さんにとっては甲殻類に属するコイやキンギョに付く寄生虫のことですが、まあ良しとします。

 

って言いながら、チョウで画像検索しても昆虫綱鱗翅目のバタフライばっかりで、寄生虫の方はちっとも出てこないんですけどね。

 

 

……チョウはいいとして、植物です。

 

ゲノム解析という言葉があります。

 

ゲノムとは、DNAの全配列のことです。

生物が持っているDNAには、使う部分(遺伝子)と使わない部分があります。

その使わない部分も全部含めて、どういう配列になっているのかを調べるのがゲノム解析です。

 

この解析によって、ゲノム配列が似ている種類は近い仲間、違いが多いと遠い仲間、ということがわかる他、どのくらい昔に種類が分かれたのか、ということもわかります。

 

そこからさらに、「AとBとCは別の種類」という程度だった分類が、「AとBが最初に分かれて、その後BからCが分かれた」ということまでわかります。

 

ゲノム解析は、最初はヒトから始まったのですが、色々な生物のゲノム解析をしていくうちに、そのデータから植物の分類を全て見直そう、という世界規模のプロジェクトが、1990年代から始まりました。

 

ゲノム解析の結果を整理するには、膨大なデータをコンピューターで計算する必要があります。

そのため、当時は世界中で

「あなたのコンピューターの使っていないリソースを貸してくれませんか」

という呼びかけのもとに、インターネットに繋がっているコンピューターを借りて計算する、なんてことも行われていました。

私もそんなソフトをダウンロードして、ささやかながらPCのリソースを貸していたものです。

 

そして、結果は1998年に一旦まとまったものの、2003年、2009年、2016年に改訂されて、その度に分類体系が少しずつ書き換えられています。

そのため、森林総合研究所勤務の植物屋さんは当時、

「しばらくは覚え直しですね。まだ全部覚えきれてないです」

なんて言っていました。

もしかしたら、今後もまだ変わるかもしれません。
 


昆虫の分類については、こちらに詳しい記事があります。


 

 

そしてその結果、理科の教科書とは少々合わない分類になってしまいました。

 

現在、小中学校の教科書では、被子植物はまず単子葉類と双子葉類に分かれて、次に双子葉類は離弁花類と合弁花類に分かれる、という順の分類になっています。

次図参照。

 

 

しかし現在の分類では、単子葉類と双子葉類の関係は、次の図のようになってます。

 

 

左から右へと種類が分かれてきたと考えてください。

次に添えた写真の通り、モクレンもスイレンも双子葉類です。

 

そこから単子葉が分かれたあとも、やはり双子葉類です。

つまり、双子葉類の一部の植物が単子葉類になったというだけで、まず最初に双子葉と単子葉に分かれた、というわけではありません。

 

これ、別にどっちでもいいような気がするかもしれません。

しかし、これは極端な話、「空を飛ぶ仲間」として鳥とチョウ(今度は虫の方ね)を一緒にするようなものです。

小学二年生以下にはこれでもいいのかもしれませんが、生物学としてはダメですよね。

 

この双子葉類のように、本来は二つ以上の系統になるものを合わせたものは「側系統」と呼ばれています。

それに対して、祖先を遡るとただ一種にたどり着くグループは「単系統」といいます。

現在の分類学の基本は単系統主義ですので、単子葉はともかく、「双子葉類」という呼び方は、すでに系統分類学的には使えない名称、という言い方もできます。

 

さらにはその次の、合弁花と離弁花という分け方も、やはり少々問題があります。

 

 

合弁花は、離弁花の進化した姿ということがわかっています。

しかしこちらも図の通り、側系統なのです。

様々な離弁花がそれぞれ合弁花へと進化してきただけですので、分類学的に二つに分けることはできません。

 

色々書きましたが、だから今の教科書はダメだとか言うつもりはありませんので一応。

単なる無駄な知識の提供でございます。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義