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HOME雑記帳(あすなろ)あすなろ175 アブラナ(過去記事)
2016.05号
五月です。
春の花といえば桜でしょうが、桜が散っても春はまだ続きます。
虫好きの私にとっては、五月にカマキリが孵化するまでは、まだ本格的な春は始まっていません。
または、望遠鏡を立てようにも風が強すぎるわ黄砂で空は霞むわ屋上は寒いわで、天文部がグダグダと落書きばっかりしつつ過ごす毎日が来てこそ、春本番といえましょう。
この時期の花として、今回は菜の花を取り上げてみようと思います。
菜の花は、ご存じかと思いますが和名をアブラナといいます。
小学校でもそう習います。
ところが、その辺の畑の脇や河川敷に咲いている菜の花は、よく見るとアブラナばかりとは限らない上、アブラナにも種類があることは、あまり知られていないと思います。
(地域によって違いはあると思います)
私が実際に見かけたのは、セイヨウアブラナ、アブラナ、カラシナの三種です。
詳しい人が見れば、まだ他にもあるかもしれません。
一番簡単に区別できるのは、カラシナです。
葉の付き方で見分けられます。
これだけだと、なんだ全然違うじゃんと思うかもしれませんが、野に生えている状態だとこれがまたそっくりなんですよね。
そんなのが、同じ河川敷にあっちがアブラナ、こっちがカラシナというように混在しています。
そして、そのアブラナの方にも二種類のものがあります。
それが先に挙げた「アブラナ」と「セイヨウアブラナ」です。
話を進める上で紛らわしいので、ここでは「アブラナ」を仮に「在来種」と呼ぶことにします。
一番わかりやすい区別点は、種子の色です。
セイヨウアブラナは黒い種、在来種は赤い種(黄褐色)をつけます。
ただ、今の時期はまだ種子が熟していないので区別できません。
そんなときは、花の萼片(がくへん)の開き具合で見分けます。
ちょっとわかりにくいのですが、セイヨウアブラナは、萼があまり開いていません。
花が開ききった状態では、萼の先端は花弁(花びら)よりも上に突き出ています。
対する在来種は、萼がもっと大きく開きます。
花が完全に開いた状態で横から見ると、花弁とは完全に離れた角度まで開きます。
また、在来種の方が西洋アブラナよりも少し明るい色をしているのですが、これは二つを実際に並べてみないと区別しにくいと思います。
慣れればわかるのかもしれませんが。
今回の在来種アブラナは、小貝川の堤防で見つけました。
やはりこの二種も、同じ堤防であちらはセイヨウ、こちらは在来というように混在しています。
ここではカラシナは見かけませんでした。
一方、鬼怒川の堤防では、セイヨウアブラナとカラシナばかりのようでした。
また、鬼怒川河川敷の公園っぽい場所にある菜の花畑では、ざっと見たところセイヨウアブラナばかりでした。
こちらは恐らく、人為的に種をまいて作った場所なのでしょう。
さて、菜の花と言ったりアブラナと言ったりしていますが、本来の菜の花は、「菜」の花を指す言葉でした。
では菜とは何かというと、葉や茎を食べる草を指す言葉です。
日本語では、一般的に文字数が少ない方が古くから使われてきた言葉ですので、菜は相当古い言葉と思われます。
平安時代には、一月七日に若菜摘みという行事があったことが枕草子にも書かれています。
百人一首にも若菜摘みを詠んだ歌がありますので、菜の花とは、元々はそのあたりの植物の花の総称だったのでしょう。
そんな菜の中に、エゴマという植物があります。
エゴマは、縄文時代から日本で利用されてきたシソの仲間で、遙か昔は食用として栽培されてきたのですが、鎌倉時代の頃にはその種をしぼった油が、燃料としてよく使われるようになってきました。
そして江戸時代になると、油の原料は、エゴマの種からアブラナの種へと移り変わっていきます。
アブラナ自体は昔から日本にありましたが、昔は普通に野菜でした。
ウィキペディアによりますと、古事記や万葉集に、現在とは違う名前で登場するそうです。
それが前述の通り、油用として大量に栽培されて、名前もアブラナとなってしまったようです。
また、セイヨウアブラナが日本で栽培されるようになったのは、明治以降なのだそうです。
さて、今回のこの記事を書くにあたって、セイヨウアブラナと在来種の違いを調べようかと、我が家の図鑑を開いてみました。
まずは小学館の子供用図鑑を見たのですが、アブラナは小さい写真一枚しか載っていません。
まあしょうがないよねと思って次に、「日本の野草」を見ても、影も形もありません。
おや?と思って今度は、保育社の原色図鑑――要は図書館にあるような図鑑――の、「植物Ⅰ」「植物Ⅱ」「園芸植物」の三冊を見ても、全く載っておりません。
しばらく目を疑いましたが、考えているうちにわかりました。
要するに、アブラナは野菜だからなのです。
普通は、植物図鑑には野菜は掲載されないのです。
だって野菜は、「この植物の名前は何だろう?」と、図鑑を開いたりはしません。
そこの畑の持ち主に聞けばそれで終わりですからね。
現在でも在来種のアブラナは、野菜として植えられている地域があるとのことです。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義