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HOME雑記帳(あすなろ)あすなろ76 数詞、助詞「へ」(過去記事)
2008.02号
あけましておめでとうございます。
今年も当塾をよろしくお願い致します。
最近、朝は毎日寒いですね。
私は毎朝、小学校の通学班の集合場所まで、一年生の子供と一緒に行っているのですが、こいつらよくこの寒い中行くわなんて、毎朝考えています。
小学生ともなると、まわりにポケモンをやっている子供が、急に増えるようになりました。
幸い、ウチの子はあまりゲーム自体には興味がないようですので、それはそれで助かっているわけですが、会話を聞いていて、一つ面白いことに気づきました。
ポケモンというのは、基本的に「RPG」という形式のゲームですので、戦って経験を積んで、「レベル」の数値が上がっていきます。
そのレベルは、ポケモンの場合はレベル1からレベル100まであり、ゲーム内での表記は、レベル5ならば「Lv.5」となっています。
さて小学生。
このレベルの呼び方が、ぼくらのような古いゲーム人とは、少々違うのです。
「今レベルいくつ?」ではなく、
「今なんレベ?」
「50レベルになった」
なんて会話をしています。
「レベル50」ではなくて、「50レベル」なんですねえ。
この言い方、思えば他の地域でも聞いたことがありました。
単なる地方性なのかもしれませんが、考えてみると、こっちのほうが、日本語として自然な呼び方なんですよね。
だって日本語では、数詞は数字のあとにつけるものですから。
具体例を出すまでもないのですが、数えるときには一枚二枚ですし、一個二個です。数詞は全て、数のあとです。
小学生は、数詞のあとに数字をいれるというレベル表記を、直感的に日本語として自然な形に変えたのでしょう。
先入観がない子供だからこそできることなのだと思って、軽く感動しています。
(この話は、後に詳しく取り上げています→あすなろ140)
台所の洗い物をしながらそんなことを考えていたら、面白いことにまた気づきました。
数詞には、音便変化する物があります。
例えば、一本(ぽん)二本(ほん)がそうです。
色々と考えていて、ちょっとした分類ができることに気づきました。
●一般和数字標準群
回: いっかい にかい さんかい
艘: いっそう にそう さんそう
●一般和数字音便群その1
階: いっかい にかい さんがい
軒: いっけん にけん さんげん
●一般和数字音便群その2
本: いっぽん にほん さんぼん
匹: いっぴき にひき さんびき
偏: いっぺん にへん さんべん
●一般和数字音便群その3
班: いっぱん にはん さんぱん
辺: いっぺん にへん さんぺん
●原型和数字群・特殊群
月: ひとつき ふたつき みつき
人: ひとり ふたり さんにん
日: ついたち ふつか みっか
●漢数字群
枚: いちまい にまい さんまい
台: いちだい にだい さんだい
※この分類法は、私の勝手な思いつきと命名によります。学術的には全く意味がありませんので一応。
以上の中で、注目すべきは回と階、偏と辺です。
基本形を読む音が同じでも、その意味によって変化の仕方が違うんですね。
このような音便が変化する法則は、数詞の最初の文字によって機械的に変わるのだろう、と最初は考えていました。
英語で、母音の前に「a」をつけるときには「an」に変わる(an apple)というようなものと同じだろうと思ったからです。
また日本語でも、五段活用する動詞の連用形では、音便変化は、そこそこの規則性があるような気がします。
(あまりちゃんと調べていないので、例外があったらごめんなさい)
例 活用語尾が「つ」の五段活用は、連用形の音便変化が「っ」になる。
待つ→待った
立つ→立った
放つ→放った
他にも、活用語尾が「く」なら、連用音便は「い」になる(巻く→巻いた 開く→開いた)など。
ですから、回と階のような違いに気づいたときには、少し驚きました。
どういう由来から、こういう違いが生じたのでしょう?
というわけで、今回私が上に揚げたグループの、違いを生じる理由
~三回と三階は、なぜ読み方が違うのか~
を、誰か研究してみませんか?
日本語の発音の話といえば、もう一つあります。
これも私の身の回りの話ですが。
最近、私の下の子(五歳児・幼稚園年中組)が、妙な日本語を使うようになってきました。
「さっきの猫が、あっちへ行った」
ね。
変でしょ。
……あれ?
何も変じゃないですか?
さて。
何が変なのだと思います?
今、私が伝えようとしていることは、実は口では簡単に伝わるのに、文章だと伝えにくい、という珍しい内容です。
最近のウチの子がやっていることとは、「あっちへ」を
「atchi-he」
と発音するというものなのです。
つまり、助詞の「へ」を「e」と発音せずに、「he」と発音しているのです。
逆は、よく聞きますよね。
低学年の作文で、「あっちえ」と書いてしまうというやつです。
悪い見本として、「は」「を」と共に、小学校の国語の教科書には必ず登場します。
もちろんこれは、耳で聞き、口で話す「話し言葉」と、字で書く「書き言葉」のギャップからくる間違いです。
ただしその原因を考えると、「話し言葉を先に知っていたから」という大前提があるように思えます。
それがウチの子の場合は、おそらく「書き言葉を先に知った」のでしょう。
これはもしかしたら、国語の教科書的には、少々特殊な例にあたるのかもしれません。
しかしよく考えてみると、日常会話で「へ」は、あまり使わないことに気づきます。
普段、方向を表す助詞って、「に」ですよね。
私の日常会話の範囲ではそう思えるのですが、いかがなものでしょうか。
百年後の辞書には、助詞「へ」は「文学的表現」とか書かれているかもしれません。
大げさか。
さて。
先日、ウチのカミサン宛に、一枚のはがきが届いた時のことです。
一枚のはがきだけどはがして広げられるタイプのはがきを、最近よく見かけますよね。
あれです。
で、子供はこれをはがしたくてたまりません。
「これ開けていい?」
「お母さんに来たやつだから、お母さんに帰ったら聞いて」
「かあちゃん屁か」
「かあちゃん『へ』じゃなくて、『え』ね」
……いつ治るのかなあ、これ。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義
追記
私の故郷(愛知県三河地方)では、助詞の「を」を、「wo」と発音していました。
ですから、音楽の時間に先生がわざわざ、
「「を」は「お」と発音すると、きれいに歌えますよ」
などと言って、みんな意識して「お」と歌うようにしていたものです。
今回の助詞「へ」も確か、「he」と発音する地方があると聞いたことがあります。
共に、昔の発音の名残です。