2018年8月
あすなろ177 新生代(過去記事)
2016.07号
数ヶ月前から、いい加減に暗記してしまおうと思って携帯電話にメモしたまま、ちっとも覚えられない言葉があります。
「ぎょうしぜん ちゅうせん こうかん」
「暁始漸 中鮮 更完」
「古第三 新第三 第四」
これは何のことなのか……わかる方もいらっしゃるかもしれませんが、まあ普通は知る必要も無い余計な知識です。
これは、地球の歴史、というか生命史のうちの、新生代を詳しく分けた名称です。
中学の理科では、かろうじて「古生代・中生代・新生代」の三つまでは習うと思います。
しかし本当は、古生代のさらに前に、「先カンブリア時代」が存在します。
また古生代は、
「カンブリア紀・オルドビス紀・シルル紀・デボン紀・石炭紀・二畳紀」
に分類され、中生代は、
「三畳紀・ジュラ紀・白亜紀」
新生代は
「第三紀・第四紀」
に分けられています。
以上ここまでは、私は小学生か中学生の頃に覚えた知識です。単なる趣味です。
※今では二畳紀はペルム紀と書かれていることの方が多いようですが、当時はどの本も二畳紀でした。
私も、小学生とか中学生とか、そんな頃はこういうものを意味も無く暗記できたのですが、今はなかなか覚えられません。
我ながら、よくもこんな意味も無い言葉の羅列を覚えられたものだと思います。
ところで、ジュラシックパークのジュラシックとは、ジュラ紀のことです。
ですが、ティラノサウルスは白亜紀後期の恐竜ですので、本当はジュラシックじゃないんですよね。
ジュラシックというのなら、本当はアロサウルスを出すべきだと思うのですが、まあそれは置いておいて。
話を戻しますと、ともかくこのような時代区分の順序がわかると、どの頃にどんな生き物がいたのか、だいたいカンがつかめるようになります。
先のティラノサウルスとアロサウルスの話も同様です。
しかし、新生代は、恐竜の中生代に比べてどうしても魅力が少なかったために、気になりながらも覚えないままでいてしまいました。
その「宿題」を、今になってやろうとしているわけです。
これが正解。
左から右に進みます。
なお、私の子供の頃は、これとは別に沖積世とか洪積世とかいう呼び名があったはずなのにおかしいな……
と思って調べてみたら、今では洪積世は更新世に、沖積世は完新世に名称が入れ替わっているのだそうです。
さて、なぜ今頃になって新生代を覚えようとしているかというと、きっかけは「赤丸600ポイントの消しゴム」でした。
小学生の塾生は全員よく知っていると思いますが、当塾にはポイントをためると消しゴムなどと交換できるシステムがあります。
小学生は原則として、解いた問題数(赤マルの数)でポイントが与えられます。
その中に、スミロドンの頭骨の消しゴムがあります。
これは、サーベルタイガーと言われる、長大な犬歯を持つネコ科の動物の一種で、絶滅種です。
でもこいつって、新生代のいつ頃だっけ?と思って、ああこれはやっぱり時代名を覚えないと話にならないなあ、と痛感したのです。
この手の生物は、よく○○万年前とかいう書きも見かけますが、そんな数字は覚えてられません。
でも時代名ならば、数字よりも覚えやすいし理解しやすいのです。
スミロドンに関しては、鮮新世から更新世が正解だそうです。
そして猿人が鮮新世で、原人から新人にかけてが更新世なので、時代的には同じということになります。
ただ、人類はアフリカからユーラシア大陸を拡散していったのに対して、スミロドンはアメリカ大陸にいましたので、出会うことはなかったようです。
新生代は、恐竜が滅んだあとの時代ですので、お子ちゃまにはあまり人気がないのですが、その代わりに巨大な哺乳類や鳥類がいたこともありました。
新生代のちょっと有名どころを、時代別に書き出してみましょう。
この時代もなかなか魅力的だということがわかると思います。
ディアトリマ(恐鳥) 始新世
バシロサウルス(原始クジラ) 始新世
ブロントテリウム(角がアレな) 漸新世
バルキテリウム(陸生最大?) 漸新世
デスモスチルス(日本にいた) 中新世
メガロドン(巨大サメ) 鮮新世
メガテリウム(巨大ナマケモノ) 更新世
ケナガマンモスなど氷河期モノ 更新世
と、ご覧のように、みんな巨大です。
すげえ、こんなでっかいのいたのかよ、なんてつい絶滅生物の巨大っぷりにロマンを感じてしまいます。
が、
が、
実は、地球の歴史上で最大の動物は、
シロナガスクジラ
なのです。
あれ実は、どんな恐竜よりもでかい動物なんですよ。
なお、中学理科の問題でよく見かけるビカリア(巻き貝)は始新世から中新世で、ナウマンゾウは更新世だそうです。
また茨城県自然博物館の、館内に入ったすぐ正面左に展示されている松花江(しょうかこう)マンモスは、漸新世なのだそうです。
だから覚えないとね。
ぎょうしぜん……
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義
あすなろ201 鳥の名の由来
2018.07号
私の自宅は、筑波山に近い田園地帯です。
周囲では色々な鳥の鳴き声も聞こえてくるのですが、今年になって、初めて聞く鳴き声がありました。
我が家のすぐ裏で、かなり大きい声で鳴いています。
ガチョウに近いような鳴き声ですが、それとも違います。
ウチの近辺で見かける鳥で、鳴き声を知らない鳥で、声の大きそうなものといえば……サギかキジあたりでしょうか。
調べてみると、キジで正解でした。
今はyoutubeで検索すれば、鳴き声も簡単にわかってしまうので便利なものです。
キジは、ニワトリに近い仲間です。
同じ仲間には、ウズラ、クジャク、コジュケイ、ライチョウなどがいます。
上:キジ 下:コジュケイ
だいたいどれも「ニワトリ型」の体型をしていて、飛ぶよりも走る方が得意な鳥です。
このうち、コジュケイは以前からずっと我が家の周囲を鳴き回っていて、馴染みの存在でした。
で、このコジュケイがまた、うるさいんですよ。
ニワトリ並に声がでかい上に、
「チョットコイチョットコイチョットコイチョットコイ……」
ってまた長いんですわ。
これが終わった後も、しばらくの間
「ギャア!・・・・・・ギャア!・・・・・・」
と繰り返します。
てなわけで、声のでかそうな鳥なら、同じ仲間のキジかなあ、なんてヤマが当たったわけです。
さて、そんなキジの鳴き声、私が聞いた感じでは、
「キェッ! キェッ!」
でした。
桃太郎などではよく「ケンケン」と鳴くとなっていますが、んー、まあそれもありかなあ、という程度の感じがします。
以前、日本人が虫の声を聞き分けられるのは、その鳴き声を日本語に落とし込んでいるから、なんて話を書いたことがあります。
スズムシはリーンリーン、ヒグラシはカナカナ、クツワムシはガチャガチャと、よく鳴き声が擬音語でされていますが、これを「聞きなし」または「聞きなす」と言います。
虫ではこの程度ですが、これが鳥の聞きなしになると、例えばフクロウは「五郎助奉公(ごろすけほうこう)」、ホトトギスは「天辺欠けたか(てっぺんかけたか)」、ホオジロに至っては「一筆啓上仕り候(いっぴつけいじょうつかまつりそうろう)」などと聞きなされます。
……と、書き出してはみたものの、本当にそう聞こえるのかと言われると、ちと怪しいものがあります。
実際に聞いてみるとわかるのですが、ホトトギスは「ホトトギス」と鳴きながら飛びます。
正確には、「ホットットトギス! ホットットトギス! トトギス! トトギス!」といった感じでしょうか。
これが、ホトトギスという鳥の名の由来です。
いやこれホント。
鳴き声を呼び名にすることは、別に変なことではありません。
今でも、「カナカナ鳴いてたよ」といえばヒグラシが鳴いていたとわかりますし、ウグイスという鳥のことをホーホケキョと呼んでも普通に通じるはずです。
昔の日本人は、そうやって鳥の名前をつけていったのです。
そう思って聞くと、ウグイスも「ウーグイス!」と聞こえてきませんか。
で、実際これが正解なんです。
もうちょっと厳密に言うと、「ウーグヒス!」から、「うぐひす」と呼ばれていました。
なお、ウグイスの鳴き声が「ホーホケキョ」から「法華経」と聞きなされたのは江戸時代以降のことで、歴史的には比較的最近です。
鳴き声から付けられた名前の鳥といえば、カッコウなんて典型例もあります。
郭公という字で書くこともありますが、完全に当て字です。
英語でもcuckooクックーと呼ばれています。
そう考えていくと、カラスの「カ」も鳴き声っぽい感じがしませんか。
それで正解です。
そこで語源辞典を引いてみると、残った「ラス」のうち、「ス」は、「鳥の名に多く見られる接尾語である」なんて書いてあります。
ところが、へーそうなのかー、と思って読むと、そこで挙げられている接尾語の例は、ウグイスとホトトギスなんですよね。
先に書いたとおり、この2つは鳴き声そのものを名前にしたと思われますので、たまたまスに揃っただけなんじゃないのかなあ、なんて少し疑っています。
それはともかくとして、万葉集にはカラスの鳴き声が「ころく」と表現された歌があるということです。
つまり、当時はカラスの鳴き声を「ころく」と聞きなしていて、その後「ころ」が「から」に変化して、接尾語の「す」がついた、という説が有力なのだそうです。
でも「す」は……。
まあいっかー。
獣の古名が「しし」なんだし、鳥が「す」もありとしましょう。
納得いってないけど。
参考:
肉=しし=食べられるケモノ
「い」のしし=いのしし
「か」のしし=かじし=しか
ところで、最初に鳴き声を書いたキジも、名前は鳴き声由来です。
古名は「きぎし」。
江戸時代に書かれた文献には、
キギシのキギってのは何のことか。
今じゃあケンケンって言ってるけど、昔はキイキイって聞いてたんだよね
なんて記述があります。
この「きぎし」が短く転訛して、キジになったということです。
スズメとツバメ(古名はツバクラメ)の「スズ」と「ツバ」も、鳴き声からきています。
ヒバリは「日晴る」から来ているという説がありますが、やはり鳴き声からという説もあります。
鳴き声由来の鳥の名前は、もっと調べれば他にもあるかもしれません。
さて。
ここからは名前の話ではないのですが、ホトトギスについて、ついでに少々。
ホトトギスといえば、すぐに連想するのが「鳴かずんば~」というやつですよね。
あの例の、信長秀吉家康のやつですよ。
若者には「鳴かぬなら~」と言った方がわかりやすいでしょうか。
あの句は、最初は子供向けの本で見た方がほとんどだと思います。
ですから大抵、そこには挿絵(さしえ)がついています。
ところで、どんな絵がついていましたか?
私がこれまでに見たものは、お城か屋敷の庭先か座敷で、殿様が座っていて、その前にはかごに入った鳥がいる、という図でした。
んーとですね……。
多分ですが、あくまで憶測ですが、この手の絵を描いた人は、ホトトギスをウグイスか何かと勘違いしているんじゃないかと思っています。
確かに、ホトトギスの大きさってのは大したことはなくて、かごに入っちゃう程度なのです。
しかし、まず、鳴き声の大きさは半端ないです。
セミの比ではありません。
相当遠くまで響きますし、声自体がかなり鋭いです。
ですから、殿様の目の前で本当に鳴き始めたら、はっきりいって大変なことになると思います。
マジで耳塞ぐレベルです。
さらに、この鳥は基本的に、飛びながら鳴きます。
もし姿が見えることがあるなら、あっちの方から鳴きながら頭の上を通り過ぎて、反対側へ飛び去っていく、というのが、現実のホトトギスに近いシーンでしょう。
ですから、もし「鳴かずんば」の挿絵を描くなら、野山に出かけた殿様を描くべきだと思います。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義