2021年2月

あすなろ230 バンアレン帯

あすなろ

 
 
 
2021年01月号
 
ご存じかもしれませんが、この国では2月14日に向けて、チョコレートの売り上げが伸びます。
 
そう。
バンアレンタインデーです。
 
バンアレンタインデーになぜチョコレートなのかは、
お菓子メーカーが作り出したものだとされています。
が、そもそもバンアレンタインとは何なのか、由来をご存じでしょうか。
 
それは、地球の磁力と関係があります。
 
六年生の授業でも少し話したのですが、地球は巨大な磁石です。
その磁石は、磁力によって色々なものを引きつけているのですが、
そうやって取り込まれた陽子や電子……。
 
えっとですね。
世の中の、目に見える物質は全て、原子というものでできています。
 



 
その原子は陽子・中性子・電子という3種類の部品(上の図参照)からできています。
陽子や電子とは、そんな部品のことです。
 
原子には不安定なものもありまして、そこから中性子やら陽子やら電子やら、
部品が少々飛んでっちゃう場合があります。
その飛んでいく力が放射線で、そのパワーはすごい熱に置き換えることができます。
それを利用して周囲を熱で吹き飛ばすのが原子爆弾で、
それを利用してお湯を沸かすのが原子力発電です。
 


あくまで概説です。
詳しい方は、細かいところに突っ込まないでください。


 
さて、地球の磁力の話に戻ります。
 
宇宙には、様々な陽子や電子が飛び回っていまして、
それは宇宙線とか太陽風とか呼ばれています。
そしてそれらが地球の脇を通りかかると、
地球の磁力に引きつけられてしまうのです。
 
磁石に引きつけられるわけですから、N極とS極に集まりますよね。
そんな時、引かれた陽子や電子は、磁力線に沿った動きになります。
 


磁力線


 
その結果、地球という磁石の周囲を、磁力線のように、
陽子や電子が飛ぶ層ができあがります。
 
これを、「バンアレン帯」と呼びます。
 


バンアレン帯イメージ。
「あけぼの」は磁気観測衛星で、26年間も飛んでいた。

 
北極点(自転軸の中心)と磁北(磁石が指す真北)には
ズレがあるため、地軸に対しては少し傾いている。


 
「バンアレン」とは、発見者の名前です。
英語でバンアレン帯は、
Van Allen radiation belt
と書きます。
Radiationというのは放射線のことです。
「バンアレン放射線帯」という意味ですね。
 
よく、バンアレンタインデーに売っているチョコレートに
 
St. Van Allen Radiation Belt's Day
 
と書いてありますよね。ありますよね。ありますよね。ありますよね。
 
あれは直訳すると、
「聖バンアレン放射線帯の日」
という意味なのでした。
はい、1つ賢くなりましたよー。
 
さて、そんなバンアレン帯を飛んでいる陽子や電子ですが、
それは先に書いたとおり、即ち放射線のことです。
ですから、この中で長居すると、被爆します。
すると、生き物はもちろん、
機器にも異常が起きやすくなります。
 
しかし上の図の通り、バンアレン帯は
地球に比べてもかなり大きいものです。
内帯でも高度2000~5000kmのところにあります。
これは、高度600~800kmを飛ぶ人工衛星よりも、
ずっと高い位置にあります。
国際宇宙ステーションは高度408kmで、
さらに低い位置にありますので、
その中にいても被爆しないわけです。
 
しかし例えば、
ちょっと月まで行ってみようかなー
と思った時には、
この放射線の満ち満ちているバンアレン帯の外側まで
行く必要があります。
そこでアポロ計画では、内帯を迂回してから
外帯を一気に突破するルートを選んだということです。
 
と書くと、
バンアレン帯にも困ったもんだ、
なんて思っちゃうかもしれませんね。
 
でも違うんです。
邪魔なものじゃなくて、むしろ逆なのです。
 
バンアレン帯は、宇宙を飛んでくる放射線が、
地球の磁気に取り込まれてできた層です。
ということは、地球の磁気がないと、
放射線は途中で引っかからずに、
そのまま地上に届きます。
ヤバいことになるのです。
 
「自然界にも放射線は普通に存在する」
というような文は、読んだこと無いですか?
 
そうなんです。
元々、太陽からガンガン放出されているのです。
しかし地球の磁気が、それをうまーく
受け流しているお陰で、
地上にはほんの少ししか降ってこないのです。
 
その、かわした放射線の通過ラインが、
バンアレン帯というわけです。
 


Solar wind=太陽風 つまり放射線


 
ちなみに、地球に磁気がなぜあるのかというと、
地球の中心部にある、核という鉄の塊の中が、
対流しているからです。
 
磁石とは、そもそも鉄です。
鉄とは、即ち磁石です。
鉄を構成する「粒子」は、一つ一つが磁石です。
しかし普通の鉄は、それがバラバラの方向を
向いたまま固まっているから、
磁力が生じないだけです。
その粒子の向きをそろえると、磁石になります。
 
んで、そんな鉄を流動させると、磁力が生じて、
その磁力によってまた鉄が流動して、という、
訳のわからないダイナモ理論という理屈があるんですよ。
私は理解できませんが。
 
地球の磁力は、そうやって生まれています。
 
ですから、何かの拍子に対流の方向が変わると、
磁気が逆転したり、一時的に無くなったりして、
バンアレン帯が乱れたり消えたりすることもあります。
つまり、宇宙からの放射線が、直接地上に降り注ぎます。
ヤバい。
 
今、バンアレン帯があることには、
感謝しなければいけないんですよね。
 
バンアレンタインデーは、そんなバンアレン帯に感謝する日です。
終わり。
 

*   *   *

 
さて、本編とは全く関係ない話ですが。
バンアレンタインデーと言えば個人的に、
連想する言葉があります。
 
第二次世界大戦の頃、イギリスで作られていた、
バレンタイン歩兵戦車です。
バンアレン帯とバレンタイン、似てませんか?
似てますよね?
バンアレンタインデーと聞く度に、
私はバレンタイン歩兵戦車を連想しています。
 
バレンタインなんて言っても、
そんな妙な言葉は聞き慣れないかもしれませんが、
有名ですよ。
何せ、イギリスで一番多く生産された戦車ですから。
 
生産台数が多い分、バリエーションも多いのですが、
下部転輪が異径3輪セットの変形ボギーサス×2の計6輪で、
非常に特徴的ですので、すぐに見分けられます。
 



 
はい、ではこの話は終わりでーす。
終わり。
 
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義

あすなろ229 七福神-2

あすなろ

 
 
 
2020.12号
 
七福神のお話、続きです。
 
前回は、その始まりとなった三体……じゃなくて三柱である
恵比寿(えびす)・大黒(だいこく)・毘沙門(びしゃもん)の話でした。
ですから今回は、それ以外の四柱です。
 
有名どころで言ったら、次点は布袋(ほてい)か弁天(べんてん)あたりでしょうか。
 
どっちが先でもいいのですが、前々回にちょっと触れた、弁天様の話から始めることにします。
 
今、弁天様と「様」をつけましたが、七福神の中で一番「様」が様になっているのが
この弁天だと思っています。
 
「さん」でしたら恵比寿さん(えべっさん)あたりは耳にしますが、
恵比寿様とか大黒天様とか……
まあ、あることはありますが、人口に膾炙しているとは言いがたいと思います。


「人口に膾炙する(じんこうにかいしゃする)」とは、
「世間の人々の話題・評判となって広く知れ渡る(北原学長の明鏡より)」
という意味です。
この言葉の面白いところは、この言葉自体が、人口に膾炙していない点です。
お前、人のこと言ってる場合じゃないだろと、いつも思うのですが。
 
……って、どっかで書きましたっけ?


それはともかく、弁天様で様が付きやすい理由は至極単純です。
美しい女性の神とされているからです。
例え神様でも、オッサンやジジイには様を付けるつもりは無くて、
でもきれいな女の人には思わず様を付けちゃうという、
要はそれだけの話です。
 
ところで、ここまで弁天弁天と書いていますが、
正式には「弁財天」です。
前々回に取り上げた、仏のランクである「天」に所属しています。
大黒天や毘沙門天と同じですね。
 
そして、こちらが元々の仏像たる「弁財天」です。
前々回にも出した画像です。
 



 
正面には剣を持っています。
他にも色々と持っています。
もう普通に仏像ですね。
 
この弁財天は、元ネタはヒンドゥー教のサラスバディ
……とずっと思っていたのですが、正解はサラス バ テ ィ だそうです。
 

うーわまじか。
ってことはパールバティもか。
 
二十代の頃からずっと間違えていたぞ俺。

 
 
 
まあ。
それはともかく。
 
上の画像のような弁財天は、武神という面を持つらしいのですが、
同時に学問や音楽の神でもあるみたいです。
それが、いわゆる弁天様の、琵琶を持った姿です。
そして弁天の元となったサラスバティも、
やはり芸術・学問の地を司る神だとのことです。
 



 
弁天(歌麿画)


 
弁天画を見ていると、その姿のモチーフはどうも、天女のようですね。
 
また、サラスバティが河に関する神だった影響で、
弁天もやはり河川や海に関わる場所に祀られてることが多いようです。
確かに、弁天島とか弁天池とか聞きますし、
弁天堂が湖畔に建っていたりもします。
 
七福神に戻ります。
 
弁天の次は、知られている順番からすれば、布袋(ほてい)になると思います。
 



 
今度は、仏教の「天」ではありません。
実在の僧侶です。
唐の時代です。
 
本来の名は契此(かいし)だということですが、
常に袋を背負っていたので通称が布袋となったのだそうです。
そしてその姿が描かれてた禅画が、日本にもそのまま伝わってきて、
そのまま定着しました。
その姿から、福の神として受け入れられたようです。
 
なお、現在のチャイナにも、布袋信仰は残っているようですね。
こんな巨大な布袋をのっけた寺が、どっかにあるらしいです。
 



 
そして残る2人は、福禄寿と寿老人です。
 
これがまたですね、どっちがどっちか、昔はいつまで経っても
覚えられなかったんですよ。
 
それもそのはずで、元は2人とも「南極老人星」の化身で、
要するに同じ人のことだったのです。
それがどういうわけか、別々に伝わったものが、
日本では福禄寿と寿老人になったらしいのです。
 
この2人は、名前からわかるかもしれませんが、
共に不老長寿の象徴です。
 
なお、「南極老人星」とはりゅうこつ座のカノープスのことで、
南中したときだけ、南の水平線のちょい上に見える星です。
カノープスは、全天でシリウスの次に明るい恒星ですので、
水平線近くの高度でも、そこそこちゃんと見えます。
とにかく、極めて高度の低い星です。
 
もっと南の地域では、もうちょっと普通に見えるらしいのですが、
多分茨城では海の水平線近くを見ないと、まともに見られないと思います。
また、りゅうこつ座は冬の星座で、オリオンやおおいぬと同じ頃に南中します。
なかなか見られないので、見えると感動しますよ。
 
それはともかく、こちらが福禄寿です。
 



 
そしてこちらが寿老人。
 



 
頭が長いのが福禄寿です。
そうじゃないのが寿老人の方。
 
福禄寿の長い頭は、やっぱり昔から面白かったようで、
江戸時代の浮世絵では散々いじられています。

 


はしごをかけて、福禄寿の頭を剃る大黒天の図。


 
江戸時代の浮世絵師、歌川国芳(うたがわくによし)が描いた、
「福禄寿 あたまのたはむれ」という、一連の作品群もあります。
後ほどご紹介します。
 
一方、寿老人といえば、強いて言えば鹿を連れているくらいで、
それ以外はこれといって特徴もない格好をしています。
残念ながら、一番薄いキャラです。
 
寿老人以外でもそういえば、七福神はそれぞれ、
使いとなる動物を連れています。
 

・恵比寿:鯛
・大黒天:鼠(ねずみ)
・毘沙門天:百足(むかで)
・弁財天:蛇
・布袋
・福禄寿:鶴
・寿老人:鹿

 
布袋だけ何もいませんが、この人は実在の人物だから仕方ない、
ということらしいです。
 
てなわけで、七福神については、だいたいこんな感じです。
日本人ならば、全員の名前は覚えておきましょう。
 
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義
 
 
 
はいおまけ。
歌川国芳作「福禄寿 あたまのたはむれ」
 






 
この作者、歌川国芳は、こんな浮世絵↓でも有名な人です。

あすなろ228 七福神-1

あすなろ

 
 
 
2020.11号
 
七福神のお話です。
七福神と言えば、宝船に乗っていて、その絵を枕の下に敷いて寝ると、
よい初夢を見ることが出来るなんて話があるんですけど、
 
――――知らないかなあ。
 



 
洋菓子のブランドである「タカラブネ」は、もちろんここから名前を取っています。
元は「宝船屋」という名前だったそうです。
 



 
それよりも、恐らく小中学生くらいでしたら、福神漬けという名前の方がおわかりかと思います。
らっきょう漬けと並んで、いつからかカレーの添え物という認識になって久しいアレです。
 



 
あれは、色々な野菜の切れ端が入った漬物なんですけど、
その具材を七福神に例えたことから、福神漬けという名前になっています。
 
てなわけで、七福神というのは福神漬けの元ネタです終わり。
 
 
 
なんてひどい説明だろう……。
 
 
 

ともかく七福神とは、七柱(神様はこうやって数えます)の神様なんですけど、
神様とは言っても古事記に登場する由緒ある日本の神様とは、またちょっと違うんですよね。
 
古事記に登場する神様というのは、天照大神(あまてらすおおみかみ)や伊弉諾(いざなぎ)、
伊弉冉(いざなみ)、大国主命(おおくにぬしのみこと)、須佐之男命(すさのおのみこと)
あたりのことです。
言い方を変えると「神社に祀られている神様」であり、「神話に登場する神様」です。
 
その形が固まったのは、古事記が編纂(へんさん)された奈良時代です。
そして、古事記の編纂は国家事業として行われました。
つまり、この神様たちは「国が定めた神様」とも言える存在です。
 
それに対して、七福神は民間信仰から始まって、なんとなく集まって出来たメンバーなのです。
順にメンバー紹介をしましょうか。
 
まずは恵比寿(えびす)です。
関西では「えべっさん」とも呼ばれています。
 
右手に釣り竿を持ち、左手に鯛を抱えている、いわゆる福の神です。
海の向こうからやってくる神様で、漁業の神様でもあります。
 



 
ところで古事記では、イザナギとイザナミは最初、ヒルコという子供を産みます。
ヒルコは、手順を間違っていたために産まれてしまった失敗作ということで、
海に流されてしまって、その後は登場しません。
古事記には、ヒルコは子には含めないと書かれています。
 
ところが、
「ヒルコは実は生きていた!」
「恵比寿となって、海を渡って帰ってきた!」
 
……という話が室町時代に登場しまして、恵比寿=ヒルコとして祀られている神社が数多くあります。
 
一方、恵比寿とはヒルコではなく、事代主神(ことしろぬしのかみ)のことである、
という説もあります。
事代主神とは、やはり古事記に登場する、大国主命(おおくにぬしのみこと)の子にあたります。
 
大国主命というのはですね、日本の国を作った人で、「因幡の白ウサギ」でウサギを治療する神様です。
神無月に日本の神様が集まると言われている出雲大社は、大国主命を祀るための神社です。
 
というわけで、どちらにせよ恵比寿は日本の神様なのですが、七福神の他の神様は、日本以外が由来だとされています。
 
次は、大黒です。
 
前回少し書きましたとおり、大黒天のことです。
仏教における「天部」の1人ですね。
 
元々は、ヒンドゥー教のシヴァの化身の1人である、マハーカーラのことだと言われています。
 




 
しかし日本では、大黒→大国→大国主と解釈されて、先述の大国主命と習合しました。
 


習合(しゅうごう)=元は別であった信仰の対象が、一つにまとまること。
民間信仰では、神様が別の神格へと分離したり、逆に同一視されて習合することは珍しくありません。


 
その結果、名称は大黒天のままでも、その実像は大国主命という、今の「大国様」ができあがりました。
 
今や大黒天と言えば豊穣の神であり、米俵の上に乗り、福袋を肩に掛け、打ち出の小槌を持ち、
さらにはネズミを使いとして従えています。
シヴァの化身だった頃の恐ろしい顔はどこへやら、もうニッコニコですよ。
 


出雲福徳神社の恵比寿(右)と大黒(左)


 
左の画像のような、恵比寿と大黒がセットで祀られている姿は多く見られます。
実はこの二柱から始まって、三柱目、四柱目……と色々加えていった結果が、今の七福神です。
 
三柱目の神様としては、私は布袋(ほてい)だと思っていたのですが、
正解は毘沙門天(びしゃもんてん)のようです。
 
名前からもわかるとおり、こちらも仏教の「天部」に属する1人です。
 
毘沙門天の由来は、ウィキペディアには
 


ヴェーダ時代から存在する古い神格であり、インド神話のヴァイシュラヴァナを前身とする


 
……なあーんて書いてありますが、すみませんよくわかりません。
私は聞いたことがなかった名前ですが、この「ヴァイシュラヴァナ」が「ビシャモン」に変化したらしいです。
 
それよりも実は毘沙門天は、四天王の多聞天と同格の存在です。
ですからその姿は、古代のチャイナな甲冑を着ているのが一般的です。
もちろん、戦いの神です。
 


那珂にある日本一の毘沙門天だそうです

 
こちら↓は前回掲載の多聞天


 
この三体から始まった信仰ですが、後には毘沙門天の代わりに弁財天が入ることもありました。
 
……が、今回はここまでにします。
 
続きはまた次回ということで。
こんなのばっかりで、なんかすみませんほんと。
 
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義