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2018.07号
私の自宅は、筑波山に近い田園地帯です。
周囲では色々な鳥の鳴き声も聞こえてくるのですが、今年になって、初めて聞く鳴き声がありました。
我が家のすぐ裏で、かなり大きい声で鳴いています。
ガチョウに近いような鳴き声ですが、それとも違います。
ウチの近辺で見かける鳥で、鳴き声を知らない鳥で、声の大きそうなものといえば……サギかキジあたりでしょうか。
調べてみると、キジで正解でした。
今はyoutubeで検索すれば、鳴き声も簡単にわかってしまうので便利なものです。
キジは、ニワトリに近い仲間です。
同じ仲間には、ウズラ、クジャク、コジュケイ、ライチョウなどがいます。
上:キジ 下:コジュケイ
だいたいどれも「ニワトリ型」の体型をしていて、飛ぶよりも走る方が得意な鳥です。
このうち、コジュケイは以前からずっと我が家の周囲を鳴き回っていて、馴染みの存在でした。
で、このコジュケイがまた、うるさいんですよ。
ニワトリ並に声がでかい上に、
「チョットコイチョットコイチョットコイチョットコイ……」
ってまた長いんですわ。
これが終わった後も、しばらくの間
「ギャア!・・・・・・ギャア!・・・・・・」
と繰り返します。
てなわけで、声のでかそうな鳥なら、同じ仲間のキジかなあ、なんてヤマが当たったわけです。
さて、そんなキジの鳴き声、私が聞いた感じでは、
「キェッ! キェッ!」
でした。
桃太郎などではよく「ケンケン」と鳴くとなっていますが、んー、まあそれもありかなあ、という程度の感じがします。
以前、日本人が虫の声を聞き分けられるのは、その鳴き声を日本語に落とし込んでいるから、なんて話を書いたことがあります。
スズムシはリーンリーン、ヒグラシはカナカナ、クツワムシはガチャガチャと、よく鳴き声が擬音語でされていますが、これを「聞きなし」または「聞きなす」と言います。
虫ではこの程度ですが、これが鳥の聞きなしになると、例えばフクロウは「五郎助奉公(ごろすけほうこう)」、ホトトギスは「天辺欠けたか(てっぺんかけたか)」、ホオジロに至っては「一筆啓上仕り候(いっぴつけいじょうつかまつりそうろう)」などと聞きなされます。
……と、書き出してはみたものの、本当にそう聞こえるのかと言われると、ちと怪しいものがあります。
実際に聞いてみるとわかるのですが、ホトトギスは「ホトトギス」と鳴きながら飛びます。
正確には、「ホットットトギス! ホットットトギス! トトギス! トトギス!」といった感じでしょうか。
これが、ホトトギスという鳥の名の由来です。
いやこれホント。
鳴き声を呼び名にすることは、別に変なことではありません。
今でも、「カナカナ鳴いてたよ」といえばヒグラシが鳴いていたとわかりますし、ウグイスという鳥のことをホーホケキョと呼んでも普通に通じるはずです。
昔の日本人は、そうやって鳥の名前をつけていったのです。
そう思って聞くと、ウグイスも「ウーグイス!」と聞こえてきませんか。
で、実際これが正解なんです。
もうちょっと厳密に言うと、「ウーグヒス!」から、「うぐひす」と呼ばれていました。
なお、ウグイスの鳴き声が「ホーホケキョ」から「法華経」と聞きなされたのは江戸時代以降のことで、歴史的には比較的最近です。
鳴き声から付けられた名前の鳥といえば、カッコウなんて典型例もあります。
郭公という字で書くこともありますが、完全に当て字です。
英語でもcuckooクックーと呼ばれています。
そう考えていくと、カラスの「カ」も鳴き声っぽい感じがしませんか。
それで正解です。
そこで語源辞典を引いてみると、残った「ラス」のうち、「ス」は、「鳥の名に多く見られる接尾語である」なんて書いてあります。
ところが、へーそうなのかー、と思って読むと、そこで挙げられている接尾語の例は、ウグイスとホトトギスなんですよね。
先に書いたとおり、この2つは鳴き声そのものを名前にしたと思われますので、たまたまスに揃っただけなんじゃないのかなあ、なんて少し疑っています。
それはともかくとして、万葉集にはカラスの鳴き声が「ころく」と表現された歌があるということです。
つまり、当時はカラスの鳴き声を「ころく」と聞きなしていて、その後「ころ」が「から」に変化して、接尾語の「す」がついた、という説が有力なのだそうです。
でも「す」は……。
まあいっかー。
獣の古名が「しし」なんだし、鳥が「す」もありとしましょう。
納得いってないけど。
参考:
肉=しし=食べられるケモノ
「い」のしし=いのしし
「か」のしし=かじし=しか
ところで、最初に鳴き声を書いたキジも、名前は鳴き声由来です。
古名は「きぎし」。
江戸時代に書かれた文献には、
キギシのキギってのは何のことか。
今じゃあケンケンって言ってるけど、昔はキイキイって聞いてたんだよね
なんて記述があります。
この「きぎし」が短く転訛して、キジになったということです。
スズメとツバメ(古名はツバクラメ)の「スズ」と「ツバ」も、鳴き声からきています。
ヒバリは「日晴る」から来ているという説がありますが、やはり鳴き声からという説もあります。
鳴き声由来の鳥の名前は、もっと調べれば他にもあるかもしれません。
さて。
ここからは名前の話ではないのですが、ホトトギスについて、ついでに少々。
ホトトギスといえば、すぐに連想するのが「鳴かずんば~」というやつですよね。
あの例の、信長秀吉家康のやつですよ。
若者には「鳴かぬなら~」と言った方がわかりやすいでしょうか。
あの句は、最初は子供向けの本で見た方がほとんどだと思います。
ですから大抵、そこには挿絵(さしえ)がついています。
ところで、どんな絵がついていましたか?
私がこれまでに見たものは、お城か屋敷の庭先か座敷で、殿様が座っていて、その前にはかごに入った鳥がいる、という図でした。
んーとですね……。
多分ですが、あくまで憶測ですが、この手の絵を描いた人は、ホトトギスをウグイスか何かと勘違いしているんじゃないかと思っています。
確かに、ホトトギスの大きさってのは大したことはなくて、かごに入っちゃう程度なのです。
しかし、まず、鳴き声の大きさは半端ないです。
セミの比ではありません。
相当遠くまで響きますし、声自体がかなり鋭いです。
ですから、殿様の目の前で本当に鳴き始めたら、はっきりいって大変なことになると思います。
マジで耳塞ぐレベルです。
さらに、この鳥は基本的に、飛びながら鳴きます。
もし姿が見えることがあるなら、あっちの方から鳴きながら頭の上を通り過ぎて、反対側へ飛び去っていく、というのが、現実のホトトギスに近いシーンでしょう。
ですから、もし「鳴かずんば」の挿絵を描くなら、野山に出かけた殿様を描くべきだと思います。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義