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2017.03号
東大生は、ピアノを習っていた子が多い、なんて調査結果があるそうです。
実は私は、幼稚園か小学校低学年の頃に、親にピアノを習わないか、と誘われたことがあります。
しかし、その頃の私にとっては、
「ピアノ=女がやるもの」
というイメージが強かったので、女みたいでヤだなあ、と思って、即答で断りました。
私が残念ながら東大出身ではないのは、そんないきさつがあるのです。
いや、それは無理がありますか。
まあ、東大はおいておくとしても、これまで見る限り成績上位の層は、確かにピアノ経験者の割合が高い気がします。
これは多分ですね、楽器というものは、つまらない反復練習に耐えてなければならないので、努力に耐えるだけの精神力が育つからなのかなあ、などと私は解釈しています。
反復練習に耐えるという点に関しては、ピアノに限らず、スポーツも同じでしょう。
しかし大抵のスポーツは、仲間と一緒に盛り上がったり競争したりしながらがんばることができます。
しかしピアノは基本的に、一人で耐えるしかありません。
また、スポーツは年に何回も試合があって、練習の成果を発揮する(発散する)機会が沢山ありますが、ピアノの発表会は、普通は年一回くらいしかありません。
それ以外は、ひたすら練習だけで一年が過ぎるわけです。
そりゃあ、精神は鍛えられますよね。
ところで、私はクラシックをよく聴いているのですが、ピアノ曲はあまり聴きません。
というのも、フルオーケストラに比べると、何となく地味で退屈な感じがするからです。
でも考えてみれば、楽器一つの曲とフルオーケストラを比べているわけですから、地味なのは当たり前なんですよね。
それよりも見方を変えると、楽器一つで曲が「完結」しているのは、ある意味すごいことです。
一台の楽器だけで音楽CDが作れちゃうものといえば、ピアノ以外ではオルガンとギターくらいでしょうか。
あとは、琴とか?
ともかく、ピアノがそれだけ多彩な曲を弾ける理由は、一つは鍵盤という装置による和音の弾き易さでしょう。
鍵盤が付いていない楽器では、同時に出せる音はせいぜい4音までです。
※ ギターの重音は、厳密には違うということで
そしてもう一つは、その音階の広さです。
以前にどこかで書きましたが、一般的なピアノの出せる音の幅は、オーケストラで使われる全楽器の音域を超えています。
例外は、シンバルとトライアングルくらいです。
あの音の高さは、確かにピアノでは出せません。
でもあれば「音階」じゃないですから。
ピアノの原型となるのは、チェンバロという楽器です。
クラブサンとも言います。
一見すると、ピアノと同じような形の鍵盤楽器で、中に音の数だけ弦を張ってあるところも同じです。
しかしその音は、ちょうどオルゴールのように、鋭く金属的に響きます。
これは、弦を金属のピンではじくという方法で音を出しているからです。
ですからチェンバロでは、音の強弱はつけられませんでした。
強弱を付けられないという点では、オルガンも同様です。
それに対して、弦をハンマーで叩くことで、音の強弱をつけられるようになったのがピアノです。
そこで、強弱を付けられる楽器ということで、「ピアノフォルテ」と名付けられました。
これがピアノの語源です。
音楽記号の「p」と、全く同じ意味なのです。
チェンバロをしばらく聞いてからピアノを聞くと、音が丸く聞こえます。
ですから、ピアノの方が滑らかに聞こえる一方で、メリハリが少ないというか、締まりが無いというか、そんな風にも感じられます。
……私が、ピアノ曲をバイオリンほどは聴く気にならないのは、もしかしたらこれが理由なのかもしれません。
私の感想はいいとして、ピアノは楽器の中では、万能性はトップクラスであることは間違いありません。
世界のあらゆる曲が、ピアノ用にアレンジされて演奏されています。
しかしそんなピアノでも、苦手な曲はあります。
例えば、バッハの「Air」、いわゆる「G線上のアリア」です。
主にバイオリンで演奏される曲です。
このアリアは、最初は全音符から始まります。
速度はレント(Lento:ゆっくり)ですので、この一音はだいたい10秒くらい続きます。
しかもこの音には、クレッシェンド(だんだん強く)がついています。
これ、ピアノでは絶対に再現不可能です。
実際には、アリアもピアノでもよく演奏されいます。
しかし聴いてみると、元々静かな曲ですので、例の最初の一音は、ペダルを踏んでも一秒程度しか音が続いていません。
やっぱ無理があるよなあ、という感じです。
ただ、バイオリンのアリアは、普通は伴奏付きでしか弾きませんので、その点では一人で伴奏まで弾けるピアノにはかないません。
※ バイオリンでも、ピチカートを駆使すれば完全ソロでアリアが弾けることを最近知りましたが、知る限りそれができているのは一人だけです。
同様に、音をどんどん重ねていくオルガン曲も、やはりピアノではきついジャンルです。
この度「主よ人の望みの喜びよ」のピアノ版をいくつか聴いてみたのですが、プロの演奏でも、やっぱり何か違うんですよね。
あの曲は、両手の短音と、足の鍵盤の長音が重ねられるオルガンだからこそ弾ける曲だ、ということが、改めてよくわかりました。
ピアノ版「トッカータとフーガ」になるとその差は顕著で、何倍音も重なるオルガンの迫力には全くかないません。
このあたりが、打楽器としてのピアノの限界なのでしょう。
さて、ヨーロッパ育ちのピアノですが、現在ピアノメーカーで世界最大手といえばどこか、ご存じでしょうか。
知らない方が多いのですが、世界一のピアノメーカーは、日本のヤマハです。
というか、ヤマハは楽器メーカーとしても世界一です。
なお「ピアニカ」も、ヤマハの商品名です。
ちなみに、世界二位は河合楽器です。
両方とも、静岡県浜松市にあるメーカーですね。
そして、ヤマハと河合の2社で、世界のピアノの99%を生産しています。
一方、電子ピアノを最初に国産化したのはローランドというメーカーですが、ここも今は浜松に本社があります。
すごいですね浜松。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義