お問い合わせ0296-43-2615
HOME雑記帳(あすなろ)あすなろ95 血液型人間学?(過去記事)
2009.09号
以前からこれを読んでいる方は十分ご承知だと思いますが、私は「科学の人」です。
科学的に正しいと証明されていないことは信用しません。
定期的に現れては消えるエセ科学~マイナスイオンだの、アミノ酸ダイエットだの、トルマリンだの~のブームは、私にとっては嘲笑(ちょうしょう)の対象でしかありませんでした。
わかっていたならともかく、本気で騙(だま)されて無駄なお金を使ってしまった人は、本当にご苦労様です。
さて、これらと同様に、もう何十年も前から、学術的に全く意味がないと否定されているのに、未だにすごい数の人が騙されているものがあります。
それが「血液型人間学」というものです。
バブル真っ盛りの80年代後半、この血液型の一大ブームが起こったことがありました。
そんな中の1986年、富山大学の学生が、卒業論文のテーマにこれを取り上げたことがあります。
こんな感じです。
血液型と関連があると思われる性格について、60項目の質問を作成しました。
それに対して、「はい」と「いいえ」で答えさせる調査を136人に対して行いました。
この「人間学」が正しいのなら、例えばO型の人の性格に合う質問なら、O型の人に「はい」が明確に多く、それ以外の人には「いいえ」が明確に多いはずです。
その違いが、測定誤差なのか有意な差(=意味のある差)かを見極めるために、統計学的に検定しました。
その結果、60個の質問の中で、有意な差が見られた回答は、たった3個だけでした。
しかもその3つは、
・血液型人間学によればO型に「はい」が多くなるはずの質問にAB型の「はい」が明らかに多くなってしまった項目
・B型が多くなるはずがAB型が多い項目
・B型が多くなるはずがO型が多い項目
の3つだったそうです。
つまり、60個も用意した「血液型別特徴」は、何一つ正しいものはないと、統計学的に否定されてしまったのでした。
別の調査もあります。
80年代に血液型ブームを巻き起こして大儲けをした能見正比古が亡き後、今は息子の能見俊賢が後を継いで布教活動に努めています。
その息子の著作では、各血液型の中にも4つのタイプがあるということになっているので、それに対応させた調査も行われました。
つまり、今回は血液型4種×4タイプの、16個の質問を用意して、自分に合うかどうかでまた「はい」と「いいえ」を聞いたわけです。
この調査では、大学生337名を対象に行われました。
結果、有意な差が現れたのは一項目のみでした。
そしてその項目も、AB型の性格のはずがO型となり、やはり「何一つ正しくない」という結果に終わりました。
もっと大規模な調査結果もあります。
TBS系全国28社テレビ局が、サンプルを無作為抽出して行っている意識調査に、血液型と関連があると言われる性格の質問項目を入れて、80年、82年、86年、88年の4回にわたり、総計12418名の調査を実施しています。
その結果を統計学的に検定したところ、全24項目の中で、毎回有意な差が出たとされる質問は1つだけでした。
しかしそれも、毎年同じ血液型に支持されたわけではありませんでした。
これはB型が多くなるはずの質問だったのですが、80年ではB型、82年はO型、86年ではB型、88年ではAB型に、多く支持されています。
結果に一貫性がないので、やはり血液型と性格との関連性は証明できていません。
血液型は、20世紀の始めに発見されました。
その新しい可能性に対して、日本の医師達が性格との関係を探ろうと模索する中、論文として最初に著(あらわ)されたのが1927年のことでした。
しかしその根拠は、各職業や行動に対して、21名の調査、12名の調査、18名の調査、など、実におそまつなものでした。
この学説は、1933年の日本法医学会総会にて、正式に否定されます。
その後、バブルの頃に流行した「血液型人間学」は、能見正比古がこれを掘り起こして、脚色しただけのものです。
現在のものも、基本的には昔のこれと変わっていません。
いいですか?
こんなものは、今から70年も前に、すでに「それはねえよ」という結論が出ているんです。
戦前の話ですよ。
ただ、一応フォローをいれますと、この手の本は確かに、うま~く騙せるような書き方をしてあります。
これは、占いでもよく使われる「テクニック」なのですが、どんな人が聞いても「自分に合っている」と思わせるようなことを言えばいいのです。
例えば、今日の占いをしてあげましょうか。
今日は、人間関係に注意。
自分勝手な行動を取ると、まわりとトラブルになるから注意してね。
……自分勝手な行動をとると、まわりとトラブルになるのは当たり前です。
よくある「今日の占い」なんてものの正体は、だいたいこんなレベルです。
では、こんな文章はどうでしょう?
・あなたは人に好かれ、尊敬されたいという強い欲求があります。
・自分の将来には希望を持っていますが、願望の中には非現実的なものもあります。
しかし、まだ使われていない潜在能力がたくさんあります。
・社会の秩序やルールを尊重し、それを守るために自制することができます。
しかし、制限や禁止事項が多いと、面白くないと感じます。
・内面の性格には弱いところもあり、時には自分の行動が正しかったのか、不安に陥ることもあります。
しかし、一般的にはそれを克服する能力はあります。
・放浪癖はありませんが、一度は行ってみたいと思っている場所が複数あります。
当たっているでしょ?
だって誰だって当たるように書きましたからね。
そしてこの冒頭を、「◆型の人は~」と書き換えて、内容を4つくらいに適当に振り分ければ、血液型人間学の完成です。
読む人は信じ切っていますから、自分に多少合わなかったときにも、自分なりに勝手に修正してくれるので便利なものです。
今では、外れたときの逃げ道も用意されています。
「性格チェック」から自分の「血液型度」を出したとき、実際の血液型と合えば「キミは素直」、合わなければ「自分を意外に知らないのかも」だそうですよ。
そんなどうにでもなるような書き方を読んだら、普通はそれでも信じる人なんてい……るんだろうなあ、やっぱり。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義
参考文献:『「心理テスト」はウソでした。』村上宣寛