お問い合わせ0296-43-2615
HOME雑記帳(あすなろ)あすなろ149 味覚のお話(過去記事再掲)
2014.03号
「しょっぱい」ですか?
「塩辛い」ですか?
塩味がきついときの表現です。
どうも関東近辺の方は、ほぼ「しょっぱい」のようですが、私が育った愛知県では、「塩辛い」もしくは単に「からい」でした。
そういうわけで、家でも塩が強いときに思わず「からい」など言ってしまうわけですが、そういうことを言うと、カミサン(神奈川出身)に「え~?」などと反発されてしまうわけです。
ですが少々言わせていただきますと、「しょっぱい」という言葉は、日本語においてはいわゆる俗語(=話し言葉)にあたります。
ですから、公式文書に使うには少々くだけすぎていますし、実際に使われません。
同じ意味の言葉を使うとしたら「塩辛い」か「塩味が強い」あたりでしょうね。
そう考えると、「しょっぱい」は方言の一種だと言ってしまっても、大きく間違ってはいないと思います。
逆に、「塩辛い」の方が主流の言葉なのです。
わかったか。
と思って調べたら、「しょっぱい」は、やっぱり関東の方言となっていました。
標準語ではないそうです。
わかったか。
私としては、「からい」という言葉は本来、漠然と「味の刺激が強い」という意味だったのではないか、と考えています。
関東基準でうっかり判断すると、
「辛い=唐辛子・胡椒・山葵(わさび)などの味」
つまり「ピリ辛」ということになるのでしょうが、それだけの解釈では、「辛口の酒」という言葉が説明できません。
この例からも、本来は、「ピリ辛」以外の意味も含む言葉だと、おわかりかと思います。
同様に、炭酸が強いことも「からい」と表現できますよね。
日本語は古い言語ですので、他にもこのような言葉があります。
例えば、「青」という色と表す言葉は、「緑色」という意味も含んでいますよね。
これも、元々は「あお」が広い意味を持つ言葉だった名残で、「からい」と同じでしょう。
「あお」という日本語は、元来は
『明るい色(白・赤)と暗い色(黒)以外の中途半端な色』
を表す言葉でした。
ですから、グリーンもブルーも、日本語では「あお」なのです。
その後、「若い」という意味を持つ「みどり」を若葉の色に当てはめて、「緑色」という言葉ができました。
(→色のお話)
ところで、「からいの反対はあまい」と、子供の頃は考えていました。
子供の皆さんは、実際にそう考えている方がほとんどでしょうし、大人の皆様も、大抵はかつてそう思っていたと思います。
後に、自分で色々と調理をするようになってからは、経験的にそれは間違いだとわかってきます。
しかしなぜこう考えてしまうのかというと、それもどうやら、日本語そのものに原因があるようです。
日本語では、味覚という枠を超えて「からい」という言葉を使うとき、「厳しい」という意味になります。
それに対する言葉は「あまい」です。
「評価・点数が辛い/甘い」といったあたりでおわかりかと思います。
決定的なのが、カレーの「甘口/辛口」という表示でしょう。
これを見た子供は、疑いなく「あまいの反対はからい」と解釈するでしょうし、「塩が多い時は砂糖を足せばいい」などと思ってしまうわけです。
でしょ?
でも現実には当然、味が混ざるだけで打ち消されることはありませんよね。
その理由は実に単純で、一つには、食塩(NaCl)と砂糖(ショ糖C12H22O11など)の水溶液を混ぜても、化学反応が起きないことです。
混ぜても塩は塩のままなのです。
そしてもう一つは、舌がそれぞれの味を感じる時は、「塩味用の受容体」「甘味用の受容体」というように、別の部品を使っているからです。
つまり、塩と砂糖が入っていれば、両方のセンサーが反応するので、両方の味を感じるわけです。
片方が多いともう片方が反応しない、ということは起こりません。
人間の舌には、その他に少なくとも三種類の味を感じるセンサーがついていまして、それぞれ「苦味」「酸味」「うま味」を感じることができます。
そして、そんな五種類のセンサーが一セットになった部品を味蕾(みらい)といいます。
人間の舌には、約10000個の味蕾がついているとのことです。
ここで、味蕾の感じる味をもう一度見てみましょう。
すなわち、「塩味」「甘味」「苦味」「酸味」「うま味」の5種類です。
――「辛味(ピリ辛味)」がありません。
実は、生理学的には、辛味は「味」とはいえないものなのです。
これは、味蕾とは別のセンサーによって感じられて、「痛み」として伝えられます。
人間は、この刺激を他の味と混ぜることで、「辛味」と感じています。
この辛味用のセンサーは、舌以外の皮膚にもついています。
唐辛子スプレーが目に入ると激痛を感じますし、皮膚に触れてもピリピリとした痛みを感じます。
また、タイの激辛料理には、唇まで熱く感じるものもあります。
このように、辛味は舌以外でも感じられる感覚ですので、味覚とは呼べないようです。
また、味の種類の中に「うま味」なんてものも入っています。
この名前だけを見ると、「うまいかまずいかの基準」みたいな響きがあって、私も昔これを初めて聞いたときは、「またバカ科学か」と思いました。
ですが本当は、そういう意味ではありません。
これは、強いて言えば「アミノ酸の味」、つまり平たく言うと「だし味」のことです。
この味に関する研究は、昔から日本がずっと最先端でした。
理由はあります。
日本料理では、食材とは別に「だし」を取ることがあるために、日本人は「だしの有無で味が変わる」ということを経験的に知っていました。
しかし西洋人は、味が足りないときには肉やチーズなどの、だしがよく出るものを入れてしまうので、「だしそのものの味」があるとは信じられなかったのです。
日本の研究者は、うま味の正体の追究を続けて、昆布などから「うま味の素」を取り出すことに成功します。
1908年のことでした。
これがいわゆる「化学調味料」「アミノ酸等」で、商品名でいうところの「味の素」です。
「うま味」という呼び方は、このときにつけられました。
英語圏には無かった言葉ですので、今でも英語でumamiと書きます。
そして2000年、このうま味を感じるセンサーを味蕾に発見したのも日本人です。
舌に専用センサーがあるとわかったので、これ以降、うま味は味覚の一つと認めらています。
そうそう。
今回調べていって発見したのですが、味覚に一番敏感なのは中学生くらいの年頃なのだそうです。
ですから中学生は、今後の人生のためにも、うまかったものの味をよく覚えておくといいかと思います。
学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義