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あすなろ150 イソップ(過去記事再掲)

2018年2月19日投稿

 

 

 

2014.04号

「うさぎとかめ」ってご存じですよね。

 

日本人にとっては、「遅い動物=カメ」という共通認識を定着させるほど身近な話(注:西洋人にとっては、遅い動物=カタツムリです)ですが、これがイソップ童話と認識している人って、どのくらいの割合でいるものでしょうか。

 

日本の歴史も古いですので、昔話の歴史も相当長いです。

 

例えばかぐや姫(竹取物語)の話は、遅くとも平安初期の10世紀には成立していたと考えられています。

それ以外の代表的な昔話(さるかに、かちかち山、花咲じいなど)は、室町時代には完成していたようです。

桃太郎と浦島太郎に至っては、元ネタが神話ですから、古事記の完成した712年には、すでに日本のどこかに伝わっていた話です。

つまりこの2つは、1300年以上前からあった話だということになります。

 


古事記とは、日本各地に伝わる神話を一本化したものだと思ってください。

古事記の中には多くの神が登場しますが、一つの神に対して「またの名は○○といふ」と複数の名前が書かれていることがよくあります。

これは、別の地域で信仰されている別の神を同一の神として扱うことで、一つの流れに組み込んでいるためと思われます。

なお、神話と言えば日本書紀という書物もあります。
中に入っている話の内容もほぼ同じなのですが、こちらは
「だから天皇には日本を治める正統性がある」
と「証明」するための「論文」です。


 

これに対して、イソップ童話の作者といわれるイソップは、紀元前6世紀の人です。

現在は21世紀ですから、ということは、今から2600年くらい前のことです。

古事記では到底勝てそうにない古さです。


(6+21=26? さあ何故でしょう)


イソップさんは、元々はある主人に仕える奴隷だったそうです。

しかし、主人の行動に対して、

「これはこうした方がいいですよ。何故なら~」

と語る例え話が秀逸だったので、後に、その例え話(寓話)を集めたのがイソップ童話の原型だったようです。

 

と、ここで一応注釈しておきます。

 

奴隷という言葉を使いましたが、一言で奴隷といっても、様々な形態がありました。

奴隷と聞くと、足首の鎖に鉄球とムチなんて連想をするかもしれませんが、実際にはそんなものばっかりとは限りません。

借金、敗戦、犯罪などで売られた身分というだけで、労働内容は賃金で雇われた人と同じ、ということもよくありました。

 

また一般市民にとっては、高価な農機や自動車を買って使うようなものだったようです。

もちろん維持費がかかるのは当たり前ですし、大金を出して買った物ですから、荒っぽい使い方をして壊れてしまっては元も子もありません。

 

農耕馬のようなものと考えてもいいでしょう。

昔の農家では、馬や牛が大事な労働力で、家族同様に暮らした人もいる、ということを考えれば、家族同様に過ごした奴隷がいても変ではないということが、おわかりいただけるかと思います。

 

今回のイソップも、たびたび主人に意見していたようですし、主人もイソップの意見を参考にしていたようですから、この主従関係も良好なものだったのでしょう。

少なくとも、よく漫画などで見かける
 
「待ってください! この人は熱があるんです!」
 
「ええいうるさい! ビシッ!」
 
「ああっ!」バッタリ。
 
「フン。死んだか」
 
なんてイメージにはあたらない、ということです。

 

というように、イソップさん自体は実在の人物なのですが、その話が全てイソップ作のものとは限らないようです。

どうも、その周辺に伝わっていた様々な話を、あれもこれもイソップ伝説にしちゃった、というようなこともあったみたいです。

 

ただ、これは別に珍しいことではありません。

例えば、「一休さん」というテレビアニメの元ネタの大半が、実際には「彦一とんち話」を初めとする古今東西の話の引用だった、なんてこともありました。

もちろん、一休禅師は実在の人物なんですけどね。
※一休さんについては、こちらに詳しく書きました。

 

ともかく、そんなイソップ童話ですが、あまりにも日本にとけ込んでいて、まるで日本の昔話のような気がしてくるものまであります。

イソップ童話の中では、以下に挙げるあたりが有名どころかと思いますが、それぞれのお話を想像できますか?

 

「アリとキリギリス」

「田舎のネズミと街のネズミ」

「犬と肉」

「ウサギとカメ」

「オオカミと少年」

「北風と太陽」

「黄金の卵を産むガチョウ」

「キツネとツルのごちそう」

「金の斧と銀の斧」

「3本の棒」

「すっぱいブドウ」

「ネズミの相談」

「卑怯なコウモリ」

 

......もちろんまだまだあります。

 

このうち「3本の棒」は、毛利元就の「3本の矢」と、ほぼ同じ話です。

また、「ネズミの相談」は、誰がネコに鈴を付けるか、の話です。

ここから、「鈴を付ける」ということわざ?慣用句?にまでなっていますよね。

「オオカミ少年」は言わずもがなです。

 

では、なぜこれほどまでに日本に定着しているかというと、イソップ物語が最初に日本に伝わってきたのが、秀吉の時代にまで遡るからなのです。

その後の江戸時代には、翻訳本が庶民の読み物として多数出回っていました。

その名も「伊曾保物語(いそほものがたり)」です。

さらに、明治の初期にも新たな翻訳本「通俗伊蘇普物語」が登場して、しかもそれが修身(現在の道徳)の教科書に採用されたので、そこからは、ますます日本人におなじみとなったのです。

 

ところで、「伊曾保物語」は、およそこんな感じの本でした。

私が持っている「絵入り伊曽保物語を読む」という本からです。

 

 

上が「京都の鼠と田舎の鼠」、下が「鼠、談合する話(ネズミの相談)」です。

 

うん。

どう見たって日本の昔話ですね。

 

なお当時は、「いろはかるた」にも「京の夢大阪の夢」「京に田舎有り」とあるように、都会=京都でした。

 

また、伊曾保物語にはイソップ自身の話もいくつかあるのですが、そこにはイソップ本人も描かれています。

それがこちらです。

 

 

ほら、右上の枠内にちゃんと「いそほ」って書いてあります。

お、よく見ると帯刀していますね。

ということはつまり、いそほさんは江戸時代、ギリシャのお侍だったということですね。

 

学塾ヴィッセンブルク 朝倉智義